正中甲状舌骨靭帯 Ligamentum thyrohyoideum medianum

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J0421 (舌骨筋(深層):前面図)

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J0737 (喉頭とその靭帯:右側からの図)

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J0744 (喉頭の正中断、右半分:左方からの図)

1. 概要

正中甲状舌骨靭帯は、喉頭領域における重要な結合組織構造であり、甲状軟骨と舌骨を連結する甲状舌骨膜の正中部肥厚部として存在する (Standring, 2021)。この靭帯は発声、嚥下、呼吸といった喉頭の基本機能において重要な役割を果たしており、臨床医学的にも多岐にわたる意義を持つ (Gray and Lewis, 2020)。

2. 解剖学的構造

2.1 位置と形態

正中甲状舌骨靭帯は、甲状軟骨の上甲状切痕 (superior thyroid notch) と舌骨体 (hyoid body) の下縁との間の正中線上に位置する (Standring, 2021)。この靭帯は甲状舌骨膜 (thyrohyoid membrane) の正中部における肥厚部分として存在し、幅約1.5cm、長さ約1.0〜1.5cmの強靭な線維束を形成している (Moore et al., 2019)。左右には外側甲状舌骨靭帯 (lateral thyrohyoid ligaments) が位置し、これらと協働して甲状軟骨と舌骨の連結を強化している (Netter, 2022)。

2.2 組織学的構成

正中甲状舌骨靭帯は、密性結合組織から構成され、豊富な膠原線維 (主にI型コラーゲン) と弾性線維が規則的に配列している (Hirano et al., 2022)。この組成により、靭帯は高い引張強度と適度な伸縮性の両方を兼ね備えており、喉頭の動的な運動に対応することができる (Gray and Lewis, 2020)。加齢に伴い、この靭帯には石灰化や骨化が生じることがあり、これが臨床症状の原因となる場合がある (Strek et al., 2021)。

2.3 血管支配

正中甲状舌骨靭帯への血液供給は、主に上甲状動脈 (superior thyroid artery) と舌動脈 (lingual artery) の分枝によって行われる (Drake et al., 2018)。これらの動脈は靭帯周囲に豊富な血管網を形成し、組織の栄養と修復を支えている (Flint et al., 2021)。静脈還流は、対応する静脈系を介して内頸静脈へと流入する (Standring, 2021)。

2.4 神経支配

正中甲状舌骨靭帯自体への直接的な神経支配は乏しいとされているが、周囲組織は上喉頭神経内枝 (internal branch of superior laryngeal nerve) によって感覚支配を受けている (Flint et al., 2021)。この神経は喉頭蓋や喉頭前庭の感覚を司っており、甲状舌骨膜領域の痛覚や圧覚の伝達にも関与している (Sataloff, 2023)。

3. 機能と生理学的意義

3.1 喉頭の位置保持と安定化

正中甲状舌骨靭帯は、甲状軟骨と舌骨を適切な位置関係に保持することで、喉頭の構造的安定性を維持する (Kahane and Beckford, 2019)。発声時には、喉頭は垂直方向に微細な動きを示すが、この靭帯が過度な可動性を制限し、声帯の適切な緊張度を維持することに寄与している (Sataloff, 2023)。

3.2 嚥下運動における役割

嚥下時には、舌骨と喉頭が協調して上前方へ移動し、喉頭蓋が後方へ傾斜することで気道を保護する (Moore et al., 2019)。正中甲状舌骨靭帯は、この動きにおいて甲状軟骨と舌骨の連動を円滑にし、嚥下の効率性と安全性を高めている (Gray and Lewis, 2020)。

3.3 外傷保護機能

前頸部への鈍的外傷時には、正中甲状舌骨靭帯が甲状軟骨と舌骨の過度の離開や圧迫を防ぎ、喉頭構造を保護する役割を果たす (Remacle and Eckel, 2020)。ただし、強い外力が加わった場合には靭帯自体の断裂や周囲組織の損傷が生じることがある (Payne-James et al., 2019)。