
J0692 (十二指腸と膵臓、および腹膜の覆い:前方からの図)
膵頭は膵臓の最も幅広い部分で、十二指腸のC字型の湾曲部(十二指腸係蹄)に入り込み、その凹部に位置しています(Gray et al., 2020; Standring, 2021)。膵頭の形状は略円錐形を呈し、その底部は右側を向いて十二指腸下行部と接しています(Moore et al., 2022)。サイズは約3.0-3.5cm×4.5-5.0cmで、膵臓全体の約30%の容積を占めています(Standring, 2021)。膵頭の下縁からは鉤状突起(鉤状部、uncinate process)が左後方に突出し、上腸間膜血管の後方を通過しています(Netter, 2019; Drake et al., 2020)。
膵頭は上腸間膜動静脈の右側に位置し、これらの血管は膵頭と膵体の境界を形成する重要な解剖学的指標となっています(Moore et al., 2022; Gray et al., 2020)。膵頭の後方には門脈、下大静脈、右腎動静脈、右腎および右副腎が存在し、これらの構造との密接な関係が外科的操作の際に重要となります(Standring, 2021; Cameron et al., 2022)。膵頭の前面は腹膜に覆われており、その前方には横行結腸間膜が付着しています(Netter, 2019)。膵頭の内側面は十二指腸の下行部および水平部と密接に接触しており、両者の間には疎性結合組織が存在します(Drake et al., 2020)。
膵頭への動脈血供給は、上膵十二指腸動脈(腹腔動脈からの胃十二指腸動脈の分枝)と下膵十二指腸動脈(上腸間膜動脈の分枝)の前枝および後枝によって形成される血管アーケードから行われます(Moore et al., 2022; Standring, 2021)。静脈還流は上腸間膜静脈および門脈を介して行われます(Gray et al., 2020)。リンパ排液は膵頭十二指腸リンパ節、上腸間膜リンパ節、肝門部リンパ節を経て、最終的に腹腔動脈周囲リンパ節および上腸間膜動脈周囲リンパ節に至ります(Netter, 2019)。
膵頭部には主膵管(Wirsung管)と副膵管(Santorini管)が存在します(Drake et al., 2020)。主膵管は膵頭内で総胆管と合流し、大十二指腸乳頭(Vater乳頭)を形成して十二指腸下行部に開口します(Gray et al., 2020; Standring, 2021)。この開口部にはOddi括約筋が存在し、膵液と胆汁の流出を調節しています(Moore et al., 2022)。副膵管は主膵管の背側に位置し、小十二指腸乳頭から十二指腸に開口しますが、約10%の症例では主膵管との交通が欠如しています(Drake et al., 2020; Yeo et al., 2018)。
膵頭部は膵臓癌の好発部位であり、全膵癌の約60-70%が膵頭部に発生します(Cameron et al., 2022)。膵頭部癌は総胆管を圧迫することにより閉塞性黄疸を引き起こすことが多く、これが早期発見の契機となることがあります(Yeo et al., 2018; Cameron et al., 2022)。膵頭十二指腸切除術(Whipple手術)は膵頭部癌、十二指腸乳頭部癌、遠位胆管癌に対する標準的な外科的治療法であり、膵頭、十二指腸、胆嚢、総胆管遠位部、幽門部胃(または胃全温存)を一塊として切除します(Yeo et al., 2018; Cameron et al., 2022)。また、膵頭部は慢性膵炎においても炎症性変化が強く現れる部位であり、膵石の形成や膵管狭窄の好発部位でもあります(Standring, 2021)。