尾状突起(肝臓の尾状葉の)Processus caudatus lobi caudati hepatis

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J0710 (腹膜の折り返し部分と肝臓:下後方からの図)

1. 解剖学的特徴

肝臓の尾状葉の尾状突起(processus caudatus)は、肝門の上方に位置し、尾状葉(lobus caudatus)と右葉の間にある実質的な結合部分です(Abdel-Misih and Bloomston, 2010)。解剖学的には、この突起は下大静脈溝(sulcus venae cavae)と門脈の間に位置し、肝臓の背側面(facies posterior)から下面(facies visceralis)に延びています(Kogure et al., 2000)。幅は約1.5〜2.5cm、長さは個人差がありますが通常3〜5cmほどで、肝右葉の内側区域と尾状葉本体を橋渡しする形態を呈します(Kumon, 2017)。尾状突起は肝十二指腸間膜の後方に位置し、門脈右枝の背側を走行するため、肝門部の解剖学的構造を理解する上で重要な指標となります(Makuuchi et al., 1991)。

2. 組織学的特徴

組織学的には、尾状突起は他の肝実質と同様に肝細胞が六角形の小葉(lobuli hepatis)を形成し、門脈、肝動脈、胆管からなる門脈域(グリソン鞘、capsula glissoni)によって区切られています(Kogure et al., 2000; Mise et al., 2014)。しかし尾状突起は独自の血管支配を持つ点で特徴的です。門脈からは門脈右枝および左枝から直接分枝を受け、動脈支配は右および左肝動脈から独立した枝を受けます(Kumon, 2017)。静脈還流は主に下大静脈に直接流入する短肝静脈(venae hepaticae breves)によって行われ、通常の肝静脈系(右肝静脈、中肝静脈、左肝静脈)とは独立しています(Nakamura and Tsuzuki, 1981)。この特殊な血行動態により、尾状突起は門脈圧亢進症や肝硬変時にも比較的保たれやすい特性を示します(Philips et al., 2015)。胆汁排泄路は右および左肝管に直接流入する独立した胆管枝を有します(Couinaud, 1957)。

3. 臨床的意義

臨床的には、尾状突起は肝臓手術において重要な解剖学的指標となります。特に肝右葉切除や拡大肝右葉切除(extended right hepatectomy)時には尾状突起の処理が手術の安全性と根治性に影響を与えます(Kumon, 2017; Takayama et al., 1990)。肝門部胆管癌の手術では、尾状突起切除の必要性が予後に関連することが報告されています(Nimura et al., 1990)。門脈圧亢進症では、尾状葉は側副血行路の一部として機能し、尾状突起は門脈・下大静脈シャントの形成部位となることがあります(Philips et al., 2015)。肝硬変患者では尾状葉が代償性に肥大することがあり、この際に尾状突起も肥大します(Harbin et al., 1980)。肝細胞癌や転移性肝腫瘍が尾状突起に発生した場合、その特殊な血行動態と肝門部への近接性から手術的アプローチが複雑になり、血管・胆管の再建を要することもあります(Mise et al., 2014)。画像診断においては、CTやMRIで尾状突起の形態評価が肝区域解剖の理解と手術計画に不可欠です(Abdel-Misih and Bloomston, 2010)。

4. 参考文献