乳頭突起(肝臓の尾状葉の)Processus papillaris lobi caudati hepatis

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J0710 (腹膜の折り返し部分と肝臓:下後方からの図)

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J0722 (網嚢:前から開けられた図)

解剖学的特徴

肝臓の尾状葉の乳頭突起は、肝臓の下面において下方に突き出た尾状葉の特徴的な部分です。解剖学的には、肝門の左側に位置し、小網腔(網嚢)の右上壁を形成します(Skandalakis et al., 2004)。この突起は楕円形の膨らみとして認識され、胃の小弯と近接しています。乳頭突起は尾状葉の下部から突出し、肝門板の後方に位置する構造物であり、通常は長さ約2-3cm、幅約1-2cmの範囲内にあります(Couinaud, 1999)。この突起の前方は小網および胃の後壁と接し、後方は下大静脈に近接しています(Bismuth, 1982)。乳頭突起は肝臓の機能的区域分類においてCouinaud分類のSegment IXに相当し、独立した血管支配を持つ特殊な領域として認識されています(Terminology Committee of the International Hepato-Pancreato-Biliary Association, 2000)。

組織学的構造

組織学的には、他の肝実質と同様に肝細胞索、類洞、およびグリソン鞘で構成されています(Crawford, 2012)。血液供給は主に門脈と肝動脈から得られ、静脈還流は肝静脈系を通じて下大静脈へと排出されます。乳頭突起の血管構造は特徴的であり、門脈の右枝と左枝の両方から血液供給を受ける場合があります(Nakamura and Tsuzuki, 1981)。また、肝動脈の分枝パターンも個体差が大きく、右肝動脈または左肝動脈、あるいはその両方から栄養を受けることが報告されています(Hiatt et al., 1994)。静脈還流に関しては、乳頭突起からの血液は主に短肝静脈を介して直接下大静脈に流入するため、通常の肝静脈系とは異なる排出経路を持ちます(Kogure et al., 1999)。この独特の血管構造により、乳頭突起は門脈圧亢進症などの病態において代償性肥大を示しやすい特徴があります(Harbin et al., 1980)。胆汁排泄については、乳頭突起からの胆管は通常、左肝管または右肝管に合流し、個体によって変異が見られます(Huang et al., 1996)。

臨床的意義

乳頭突起は肝臓の画像診断において重要なランドマークとなります。特にCTやMRIにおいて、この構造物の同定は肝臓の区域解剖の理解に役立ちます(Catalano et al., 2008)。超音波検査では、乳頭突起は下大静脈の前方、肝門部の左側に位置する低エコー〜等エコーの構造物として描出され、その同定は肝臓の断面解剖の理解に不可欠です(Soyer et al., 1990)。造影CTやMRIでは、乳頭突起の造影パターンは他の肝実質と同様ですが、その特殊な血管支配により、門脈相での造影効果が他の領域と異なる場合があります(Matsui et al., 2000)。

肝臓手術、特に肝移植や肝切除術において、この部位の血管構造の把握は合併症予防に重要です(Blumgart and Belghiti, 2007)。肝切除術では、乳頭突起の血管解剖の理解が術中出血の制御や適切な切除範囲の決定に必須となります(Makuuchi et al., 1990)。肝移植においては、ドナー肝の採取時に乳頭突起の短肝静脈や独特の血管構造を温存することが、移植後の肝機能維持に重要です(Busuttil and Klintmalm, 2015)。また、門脈圧亢進症に対する外科的治療や経カテーテル的治療を行う際には、乳頭突起周囲の血管走行の把握が治療戦略の立案に役立ちます(Henderson et al., 2006)。

肝硬変患者では尾状葉を含むこの領域が代償性に肥大することがあり、門脈圧亢進症の進行において重要な役割を果たすことがあります(Harbin et al., 1980)。尾状葉と乳頭突起の肥大は、肝硬変の重症度の指標として用いられることがあり、尾状葉・右葉比(caudate-right lobe ratio)は肝硬変の診断精度を向上させる画像所見として知られています(Awaya et al., 2002)。この代償性肥大のメカニズムは、尾状葉の独特の血管支配、特に下大静脈への直接的な静脈還流により、門脈圧亢進の影響を受けにくいことに起因すると考えられています(Paquet and Koussouris, 1974)。さらに、肝細胞癌の発生部位としても乳頭突起を含む尾状葉は注目されており、この領域に発生した腫瘍の切除は技術的に困難を伴うことが多いです(Takayama et al., 1990)。

参考文献