線維付着(肝臓の) Appendix fibrosa hepatis

J0708 (腹膜の折り返し部分と肝臓:前方からの図)

J0709 (腹膜の折り返し部分と肝臓:上方からの図)

J0710 (腹膜の折り返し部分と肝臓:下後方からの図)
肝臓の線維付属(Appendix fibrosa hepatis)は、肝臓左葉の上端部に発生する結合組織性の尖頭状付属物です(Standring, 2021)。この構造は全ての人に必ず存在するわけではなく、個体差があり、形態学的変異が認められます(Kogure et al., 2000; Bismuth, 2014)。
解剖学的特徴
肝線維付属は以下の解剖学的特徴を持ちます:
- 構造: 主に密な結合組織から構成され、コラーゲン線維を豊富に含みます(Standring, 2021)。時に小血管や神経線維を含むことがあり、肝鎌状間膜や冠状間膜との連続性が認められます(Moore et al., 2018; Abdel-Misih and Bloomston, 2010)。
- 位置: 通常、肝臓左葉の上縁(上端)に位置し、三角靭帯の近傍、特に左三角靭帯の付着部付近に存在します(Moore et al., 2018; Sinnatamby, 2011)。肝左葉と横隔膜との間に位置することが多く、肝鎌状間膜の左側縁に沿って認められます(Couinaud, 2002)。
- 大きさ: 一般的に数ミリメートルから1センチメートル程度の小さな突起状構造ですが、個体差が大きく、2センチメートルを超える例も報告されています(Sinnatamby, 2011; Caremani et al., 2008)。形状は円錐形、紡錘形、または不規則な突起状を呈します(Standring, 2021)。
- 発生学的意義: 胎生期の肝臓発達過程における遺残物と考えられており、腹側間膜(ventral mesentery)の遺残構造である可能性が示唆されています(Sadler, 2019; Moore et al., 2018)。胎生8〜10週頃の肝臓と横隔膜の分離過程において形成されると推測されています(Sadler, 2019)。
- 組織学的特徴: 顕微鏡的には、密性結合組織が主体で、膠原線維の束が規則的に配列しています(Standring, 2021)。線維芽細胞が散在し、小血管は通常、肝動脈や門脈の末梢枝から分岐します(Abdel-Misih and Bloomston, 2010)。
臨床的意義
臨床的には、この構造自体が病的意義を持つことは稀ですが、いくつかの重要な側面があります:
- 画像診断における注意点: CT、MRI、超音波検査などの画像診断において、肝線維付属が小さな腫瘤様病変として誤認されることがあります(Caremani et al., 2008; Bismuth, 2014)。特に造影CT検査では、周囲組織との造影パターンの違いから偽陽性所見となる可能性があるため、放射線科医はその典型的な位置と形態的特徴を理解しておくことが重要です(Caremani et al., 2008)。
- 外科的意義: 肝臓手術や移植の際には、解剖学的標識として参考にされることがあります(Couinaud, 2002; Bismuth, 2014)。特に肝左葉切除術や肝移植手術においては、この構造の位置と周囲組織との関係を術前に把握することが、安全な手術遂行に寄与します(Bismuth, 2014)。
- 腹腔鏡検査: 腹腔鏡検査時には、この構造が肝表面の異常として観察されることがあり、適切な解釈が必要です(Sinnatamby, 2011)。
歴史的研究と解剖学的重要性
線維付着は19世紀後半から解剖学的記述に登場し、特に肝臓の区域解剖学の研究において注目されてきました(Cantlie, 1898)。Cantlie(1898)は肝臓の機能的区域分類を提唱する中で、この構造についても言及しています。近年の研究では、この構造が肝臓の血管構造と関連して発生することが示唆されており、特に肝動脈や門脈の分岐パターンとの相関が報告されています(Abdel-Misih and Bloomston, 2010; Kogure et al., 2000)。Couinaud(2002)の肝区域分類システムにおいても、肝線維付属は解剖学的標識の一つとして認識されています。
画像診断における意義
CT、MRI、超音波検査などの画像診断においては、肝線維付属が偽病変として誤認されることがあります(Caremani et al., 2008)。適切な診断のためには、その典型的な位置(肝左葉上縁、三角靭帯近傍)と形態的特徴(小さな突起状構造、均一な軟部組織濃度)を理解することが重要です(Caremani et al., 2008; Bismuth, 2014)。特に、以下の画像所見が鑑別に有用です:
- 超音波検査では、肝実質と同等のエコー輝度を示し、内部に血流シグナルを認めないことが多い(Caremani et al., 2008)