直腸横ヒダ Plicae transversae recti

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J0705 (直腸:前から見て開かれている図)

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J0787 (男性の骨盤臓器の正中矢状断:左側からの右半分の図)

直腸横ヒダ(ヒューストン弁/ヒューストン襞)は、直腸内腔の粘膜と粘膜下層が内腔に突出してできた恒常的な半月状の構造物です(Standring, 2020)。通常、成人の直腸には3本の横ヒダが存在し、これらは直腸の支持と内容物の保持に役立っています(Moore et al., 2018)。解剖学的には、上部横ヒダは第3仙椎レベルの右側壁から、中部横ヒダ(コールラウシュヒダ)は肛門縁から約6-8cm上方の右側壁から、下部横ヒダは肛門縁から約4-5cm上方の左側壁から出ています(Moore et al., 2018; Sinnatamby, 2011)。これらのヒダは直腸の内腔を部分的に狭窄させ、糞便の一時的な保持を助ける機能を持ちます(Netter, 2019)。

組織学的特徴

これらのヒダは粘膜、粘膜下層、および輪状筋層の一部から構成されています(Sinnatamby, 2011)。粘膜は単層円柱上皮に覆われ、多数の杯細胞を含んでいます(Young et al., 2014)。粘膜下層には豊富な血管網と神経叢が存在し、特に直腸静脈叢と粘膜下神経叢(マイスナー神経叢)が発達しています(Lanz and Wachsmuth, 2004)。輪状筋層の一部もヒダの形成に関与し、これらの構造は直腸壁の柔軟性と機能性に寄与しています(Lanz and Wachsmuth, 2004; Kierszenbaum and Tres, 2016)。組織学的には、ヒダの粘膜固有層には豊富なリンパ組織が存在し、局所免疫応答に重要な役割を果たしています(Ross and Pawlina, 2016)。

臨床的意義

  1. 内視鏡検査において重要な指標となり、特に中部横ヒダ(コールラウシュヒダ)は腹膜反転部の目安となります(Netter, 2019; Cotton and Williams, 2008)。このヒダは直腸鏡検査時の重要なランドマークとして機能し、病変の位置決定に役立ちます。
  2. 直腸癌や炎症性腸疾患の診断時に参照点として利用されます(Kumar and Clark, 2017)。腫瘍がヒダを越えて進展している場合、病期分類や手術計画に影響を与えます(Shackelford, 2019)。
  3. 横ヒダが過度に発達すると、排便困難や便秘の原因となることがあります(Yamada et al., 2018)。特に孤立性直腸潰瘍症候群では、ヒダの肥厚が観察されることがあります(Levine, 2015)。
  4. 直腸検査時には、これらのヒダの触知が可能で、病変の位置確認に役立ちます(Shackelford, 2019; Swash, 2007)。触診により、ヒダの硬度や可動性の変化から病的状態を推測できます。
  5. 手術時には解剖学的ランドマークとして重要です(Skandalakis et al., 2015)。特に低位前方切除術や経肛門的直腸切除術において、ヒダの位置は切除範囲の決定に役立ちます(Heald et al., 2013)。
  6. 直腸脱や直腸粘膜脱の診断において、ヒダの変形や消失が観察されることがあります(Felt-Bersma and Tiersma, 2014)。

歴史的背景

歴史的には、1830年にアイルランドの解剖学者ジョン・ヒューストン(John Houston, 1802-1845)によって初めて詳細に記載されました(Ellis, 2018; Loukas et al., 2016)。ヒューストンは、これらのヒダが単なる粘膜の襞ではなく、直腸壁の構造的な特徴であることを明らかにしました。特に著明な中部横ヒダは、後にドイツの医師オットー・ルドヴィヒ・ベルンハルト・コールラウシュ(Otto Ludwig Bernhard Kohlrausch, 1811-1854)の名を冠してコールラウシュヒダと呼ばれるようになりました(Loukas et al., 2016)。コールラウシュは1854年に、このヒダが腹膜反転部との関係において臨床的に重要であることを示しました(Wangensteen and Wangensteen, 1978)。

参考文献