直腸

直腸は大腸の一部であり、消化管の末端に位置します。結腸から直腸に移行する場所はゆるやかで、仙骨の中央部がほぼ両者の境界となります。直腸は腸間膜を欠き、直腸ヒモを示さない部分です。直腸の下端は、骨盤隔膜を貫く寸前までで、それ以下は肛門管となります。直腸窩部は肛門管の直上部に位置し、膨大部と呼ばれるふくらみを形成します。膨大部上方には横走するヒダが2~3本認められ、直腸横ヒダといい、最も恒常的なものは右壁にあって、コールラウシュのヒダと呼ばれます。 直腸の壁には平滑筋の筋層があり、重筋層と一部の輪筋層は周辺の臓器に伸び、直腸尾骨筋、直腸膀胱筋、直腸尿道筋などと呼ばれる筋束を形成しています。直腸が拡張すると、壁の伸展刺激は求心性神経線維によって仙髄に伝えられ、反射的に排便が起こります。排便中枢は仙髄(S2~4)にあり、肛門脊髄中枢anospinal centerと呼ばれます。 排便の際には、交感神経が抑制されるとともに、副交感神経の興奮が高まって、大腸の蠕動・収縮がおこり、内肛門括約筋は弛緩し、さらに陰部神経を介して外肛門括約筋も随意的に緩められます。また、肛門挙筋の収縮によって腹圧が高められ、排便が助けられます。 直腸は、仙骨の曲がりに沿って前方に凹の間借りを示し、これを仙骨曲といいます。下端近くでは前方に凸の曲がりを示し、これを会陰曲といいます。

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J0704 (腹膜被覆を除去した後の直腸:前方からの図)

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J0705 (直腸:前から見て開かれている図)

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J0706 (直腸の粘膜(上部):粘膜表面の図)

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J0707 (直腸肛門部の断面)

日本人のからだ(村上 弦 2000)によると

(1)計測

直腸横ヒダは左右ともに顕著なことが多い.とくに右側には21例中18例に存在していた(浦,1987).肛門から直腸横ヒダの距離は55 mm. 後腔円蓋の上下1cmのあいだにある.直腸腔中隔の厚さは,上部で7.5 mm.下部で6-12.5 mmである.腔口と肛門の距離は33 mm. 肛門と尾骨尖の距離は43 mmである(浦,1987).また会陰腱中心(会陰体)の幅は1.0-1.5 cm.前後および高さは2.0-2.5cm (佐藤・佐藤,1988)である.肛門管長については,成人172例(男性,140; 女性, 32)の生体観察によるデータがある**(表12)** (高野,1978).加齢による肛門管長の変化については,縮小するデータと延長するデータがあり,いずれも肛門管の支持組織が減弱することを理由にしている(辻ら,1995).直腸上端(S状結腸間膜根下端)の位置については橋本(1960)が胎児で仙骨岬角との関係を計測している.肛門と骨盤との位置関係については,岡元・淵野(1959)の詳細な計測がある.

なお, Kubota (1954)は尾骨小体を29解剖体中21体で確認している.

文献

表12 肛門管長の測定値

表12 肛門管長の測定値

外科的肛門管 解剖学的肛門管
(括約筋におおわれている範囲) (皮膚縁から歯状線まで)
男性 3.2cm(1.5-4.2) 1.8cm(0.9-3.1)
女性 2.9cm(1.8-3.6) 1.7cm(1.1-2.9)