
小腸の粘膜下組織は、弾性線維と膠原線維に富む疎性結合組織であり、構造的な支持と柔軟性を両立させています(Ross and Pawlina, 2016; Eroschenko, 2017)。この層は粘膜固有層と筋層の間に位置し、粘膜の可動性を確保しながら血管・神経・リンパ管の通路として機能します(Mescher, 2018)。上部小腸では輪状ヒダ(plicae circulares、Kerckringヒダ)の芯部を形成し、吸収面積を約3倍に増加させる重要な役割を担っています(Standring, 2020)。粘膜下組織には、小腸の生理機能を支える血管系(粘膜下動脈叢、粘膜下静脈叢)とリンパ管網が豊富に発達しており、これらは栄養素の吸収と全身への輸送に不可欠です(Kierszenbaum and Tres, 2016)。組織学的には、コラーゲン線維束の波状配列と、その間に散在する線維芽細胞、肥満細胞、マクロファージ、形質細胞などが特徴的です(Young et al., 2014)。
臨床的に重要なのは、この層に位置するマイスナー神経叢(粘膜下神経叢、submucosal plexus)で、腸管の蠕動運動や分泌機能、血流の局所調節に関与しています(Furness, 2012; Gershon, 2013)。この神経叢は、副交感神経線維(迷走神経由来)と交感神経線維(上・下腸間膜神経節由来)、さらに内在性神経細胞で構成され、粘膜の分泌と血管運動を精密に制御します(Goyal and Hirano, 1996)。組織学的には、HE染色標本において神経線維束の断面や神経節細胞の集団が特徴的に観察され、免疫組織化学的にはニューロン特異的エノラーゼ(NSE)や蛋白遺伝子産物9.5(PGP 9.5)に陽性を示します(Balemba et al., 2002)。これらの障害はヒルシュスプルング病(先天性巨大結腸症)などの腸管運動障害の原因となり、神経節細胞の先天的欠損により腸管の無蠕動区域が生じます(Gershon, 2005; Goldstein et al., 2016)。
十二指腸の粘膜下組織には、十二指腸腺(ブルンナー腺、duodenal glands, Brunner's glands)と呼ばれる分枝管状胞状粘液腺が特異的に存在します(Mescher, 2018; Krause, 2000)。これらは胃の幽門腺と類似した構造を示し、主に十二指腸球部から下行脚にかけて分布し、空腸移行部では急速に減少します(Schofield, 1962)。組織学的には、腺腔が広く、腺細胞の核は楕円形で基底部に位置し、核上部(管腔側)は粘液糖タンパク質を含む分泌顆粒で満たされています(Young et al., 2014; Stevens and Lowe, 2005)。PAS染色やアルシアンブルー染色により、これらの粘液多糖類が強く染色されます(Krause, 2000)。HE染色標本では、この部分は明るく抜けて見えることが特徴です。導管は明るい細胞質を持つ円柱ないし立方上皮細胞で構成され、粘膜筋板を貫通して腸陰窩(Lieberkühnクリプト)の底部に開口しています(Ross and Pawlina, 2016)。
臨床的意義として、十二指腸腺は迷走神経刺激や食物摂取、セクレチン、コレシストキニンなどの消化管ホルモンに応答して重炭酸イオン(HCO₃⁻)を豊富に含む中性〜アルカリ性の粘液(pH 8.0-8.5)を分泌し、胃から送られてくる強酸性の内容物(pH 1-2)から十二指腸粘膜を保護します(Krause, 2000; Allen and Flemström, 2005)。この防御機構の破綻は十二指腸潰瘍の主要な発症機序となり、Helicobacter pylori感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用により増悪します(Wallace, 2008; Laine et al., 2008)。また、十二指腸腺は、消化管ホルモンであるセクレチンやコレシストキニンの産生にも関与し、膵外分泌(重炭酸イオンと消化酵素の分泌)や胆嚢収縮の調節、さらには胃酸分泌の抑制にも寄与しています(Rehfeld, 2017; Chey and Chang, 2014)。十二指腸腺の過形成は良性であることが多いですが、稀に腺腫性変化や悪性転化の報告もあります(Levine et al., 1995)。