輪筋層(小腸の)Stratum circulare tunicae muscularis intestini tenuis

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J0697 (小腸壁の構造)

解剖学的特徴

小腸の輪筋層は、筋層(tunica muscularis)の内側に位置する平滑筋層で、筋線維が小腸の長軸に対してほぼ垂直方向に走行しています(Young et al., 2014; Ross and Pawlina, 2020)。この層の厚さは部位により異なりますが、概ね0.3〜0.5mmで、外側の縦走筋層よりも厚いのが特徴です(Standring, 2020)。輪筋層は消化管の蠕動運動において中心的な役割を担っており、収縮により管腔を狭窄させることで内容物の混合と肛門方向への推進を促進します(Hansen, 2003)。組織学的には、平滑筋細胞が密に配列し、細胞間には結合組織とカハール介在細胞(interstitial cells of Cajal)が分布しています(Sanders et al., 2014)。

微細構造と機能的配置

厳密な解剖学的観察によれば、輪筋層の筋線維は完全な円形ではなく、短いピッチのらせん状に配列しており、「短ピッチラセン層(short pitch helicoidal layer)」とも称されます(Gabella, 1987; Stach, 1989)。このらせん状配置により、収縮時に腸管の内腔を効率的かつ均一に狭窄させることが可能となります(Huizinga and Lammers, 2009)。筋線維間には豊富な自律神経叢、特にアウエルバッハ神経叢(筋層間神経叢)からの神経線維が分布し、消化管運動の神経性調節に関与しています(Furness, 2012; Sanders et al., 2016)。また、カハール介在細胞は消化管のペースメーカー細胞として機能し、律動的な収縮波を生成・伝播させる役割を担っています(Huizinga et al., 2014)。平滑筋細胞はギャップ結合により電気的に結合しており、これにより収縮が協調的に伝播します(Daniel et al., 1994)。

臨床的意義と病態生理

輪筋層の機能障害は多様な消化器疾患の病態に関与しています。腸閉塞では輪筋層の過剰な収縮または弛緩不全が内容物の通過障害を引き起こします(Cappell and Batke, 2008)。過敏性腸症候群(IBS)では、輪筋層の収縮異常や内臓知覚過敏が症状発現に寄与していると考えられています(Camilleri et al., 2012)。炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)では、慢性炎症により輪筋層の肥厚や線維化が生じ、これは超音波検査やCT検査で腸管壁肥厚として観察されます(Panes et al., 2013; Rimola et al., 2009)。また、糖尿病性胃腸症では自律神経障害により輪筋層の運動調節が障害され、腸管運動不全を来すことがあります(Camilleri et al., 2018)。消化管運動機能検査(manometry)は輪筋層の収縮活動を定量的に評価する重要な検査法であり、運動障害の診断や治療効果判定に用いられます(Rao and Camilleri, 2010)。

参考文献