食道

食道は咽頭から始まり、下方で胃に繋がる長い管で、狭義の消化管の最初の部分を形成します。食道の全長は上部の狭窄から始まり、脊柱の前を下って胃の噴門部に至るまで約23-26cmです。内腔は適時拡張し、例えば義歯を飲み込む際などに対応します。内腔の狭い部分は上端(上食道狭窄)、大動脈弓と気管支が交差する部分(中食道狭窄)、下端(下食道狭窄)の3箇所にあり、上下端では通常内腔が閉じられ、括約筋の存在が認められます。食道は頚部・胸部・腹部と区分けでき、頚部は脊椎の前、胸部は横隔膜以下、腹部は横隔膜の食道裂孔を通過して腹腔内に進入し、噴門部に至る短い部分です。食道壁の粘膜は重層扁平上皮で覆われ、粘膜筋板を持ち、食道腺が点在します。上端や下端には食道噴門腺が存在します。筋層は上部で横紋筋、下部で平滑筋となり、平滑筋束の一部は気管支食道筋や胸膜食道筋として周囲の器官と連続します。筋層の外側は疎性の結合組織である外膜で覆われます。

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J0685 (食道と気管とその周囲:前方からの図)

日本人のからだ(村上 弦 2000)によると

(1)区分

日本で使用されている食道の区分については、佐藤(1979 b,1993)や外科系の教科書などを参照してください(図10)。外科的な区分は1999年に改訂されました。これまでのIu(上部胸部食道)がUt、Im(中部胸部食道)がMt、Ei(下部胸部食道)がLt、Ea(腹部食道)がAeという略語に変更され、Ut+Mt+LtはTe(胸部食道)となりました。

食道には、嚥下時に一定の膨隆部と収縮部が観察され、その結果、通常は6箇所の湾曲を形成します(勝山、1961)。

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図10 食道の区分(食道疾患研究会, 1992)

図10 食道の区分

食道の区分法を示します。これは、臨床で使用されています。食道入口部を喉頭の輪状軟骨下縁(O)と定め、そこから胸骨上縁(S)までを頸部食道(Ce)とします。胸部上中部食道(I)と胸部下部・腹部食道(E)は、気管分岐部下縁(B)、横隔膜の食道裂孔(D)、食道胃接合部(J)を基準に分け、さらに細分化して図に示すように命名します。

Eaは腹部食道、Eiは胸部下部食道、Imは胸部中部食道、Iuは胸部上部食道を表します。1999年の改訂については本文を参照してください。

(2)計測,狭窄部

生体では、食道の長さは24.9 cmで、解剖学実習体では23.3 cmです。男性は女性よりも食道が長く、身長や坐高に比例して長さが増します。食道は第11胸椎の高さで噴門に移行します(勝山・川本、1961)。先天性や後天性の短食道の形成があり、その解剖所見は関野ら(1985)によって報告されています。食道壁の部位別の厚さと組織構成については望月(1938)が、厚さと強度については野々垣(1960 b)が報告しています。浄住・丸田(1959)は食道狭窄部の計測を行い、上狭窄部は第7頚椎、中狭窄部は第3胸椎、下狭窄部は第10胸椎の高さに存在すると述べています。上狭窄部の主体(輪状軟骨、静脈叢、括約筋)は定かではなく、また、日本人についての調査は行われていません(佐藤、1993)。中狭窄部については、浄住・丸田(1959)の所見から大動脈弓が主体と考えられます。下狭窄部は食道裂孔よりもやや高い位置に存在し、下部食道括約筋の存在については形態学的に意見が分かれています(佐藤、1993)。しかし、下部食道括約筋の機能的な解析は進められています(関口、1995)。

(3)気管食道筋の付着位置と走行

食道の縦走筋の一部が、食道と接触する気管または気管支壁表面に移行し、気管食道筋または気管支食道筋を形成することがあります。出現頻度は7か月以上の胎児で36.9%、成人では33.3%で、この数値から見て、存在する場合は早期から出現する傾向があると思われます。筋の大部分は気管膜性壁に存在し、食道が気管の左に少し偏っていることを反映し、気管への接続点はその左半部、食道からの起点はその右半部に偏在する傾向があります。さらに、筋束は大部分が水平または食道から気管へ向かって斜上行する傾向があります。平滑筋であることが多いと報告されています(葉山、1953; 柳沢、1963)。食道の筋層構成については、望月(1938)および中山(1964)の報告が参考になります。縦走筋層は食道上半部で側縁に発達し、側柱という構造を形成します。