

咽頭の口部(中咽頭、oropharynx)は、口腔の後方に位置する咽頭の中部領域です。解剖学的には上方は軟口蓋(soft palate)と口蓋垂(uvula)によって形成される咽頭峡(isthmus faucium)を通って鼻咽頭(nasopharynx)に連続し、下方は舌骨(hyoid bone)のレベル(第3頸椎の高さ)で下咽頭(hypopharynx)に移行します(Standring, 2020)。前壁は舌根(舌の後1/3、posterior third of tongue)、側壁は口蓋扁桃(palatine tonsils)と口蓋舌弓(palatoglossal arch)・口蓋咽頭弓(palatopharyngeal arch)、後壁は第2および第3頸椎の高さで咽頭収縮筋(pharyngeal constrictor muscles)によって構成されています(Moore et al., 2022; Netter, 2023)。中咽頭の境界は臨床的にも重要で、上方境界は軟口蓋の下縁、下方境界は喉頭蓋の上縁とされています(American Joint Committee on Cancer, 2017)。
中咽頭の粘膜は非角化重層扁平上皮(non-keratinized stratified squamous epithelium)で覆われており、その下には固有層(lamina propria)と粘膜下組織に豊富なリンパ組織(ワルダイエル咽頭輪、Waldeyer's ring の一部)が存在します(Ross and Pawlina, 2020; Netter, 2023)。特に口蓋扁桃は粘膜関連リンパ組織(MALT: mucosa-associated lymphoid tissue)として免疫防御において重要な役割を果たし、抗原提示細胞、T細胞、B細胞が豊富に存在しています(Kumar et al., 2021)。神経支配は主に舌咽神経(glossopharyngeal nerve, CN IX)による一般感覚と味覚、迷走神経(vagus nerve, CN X)による運動支配を受けており、血液供給は外頸動脈(external carotid artery)の分枝である顔面動脈(facial artery)、上行咽頭動脈(ascending pharyngeal artery)、舌動脈(lingual artery)の背側舌枝によって行われます(Standring, 2020; Drake et al., 2022)。静脈還流は咽頭静脈叢(pharyngeal venous plexus)を介して内頸静脈(internal jugular vein)に注ぎます(Moore et al., 2022)。
機能的には、中咽頭は嚥下の第二相(咽頭相、pharyngeal phase)で重要な役割を担っており、食塊を口腔から食道へと送り込む通路となります(Moore et al., 2022; Hall and Hall, 2021)。嚥下反射では、軟口蓋が挙上して鼻咽頭を閉鎖し、舌根が後方に移動して食塊を咽頭に押し込み、咽頭収縮筋が連続的に収縮することで食塊を下方へ推進します(Matsuo and Palmer, 2008)。また、中咽頭は発声時の共鳴腔(resonance chamber)としても機能し、言語形成にも関与します(Titze, 2000)。さらに、ワルダイエル咽頭輪の一部として、吸気とともに侵入する病原体に対する免疫学的防御の最前線を形成しています(Perry and Whyte, 1998)。
臨床的には、急性扁桃炎(acute tonsillitis)、慢性扁桃炎、扁桃周囲膿瘍(peritonsillar abscess)、咽頭炎、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome)、中咽頭がん(oropharyngeal cancer、特にヒトパピローマウイルス[HPV]関連)などの疾患が重要です(Kumar et al., 2021; Chaturvedi et al., 2011)。中咽頭がんは近年、HPV感染、特にHPV-16型との関連で増加傾向にあり、HPV陽性中咽頭がんは比較的若年層に多く、予後は従来の喫煙・飲酒関連がんよりも良好とされています(Ang et al., 2010; Gillison et al., 2015)。早期発見が予後改善に不可欠であり、持続する咽頭痛、嚥下困難、頸部リンパ節腫脹などの症状には注意が必要です(National Comprehensive Cancer Network, 2023)。