咽頭腔 Cavitas pharyngis

J0674 (咽頭とその周囲の右半分:左側からの図)

J0741 (声帯の高さでの喉頭の断面、上方からの図)
咽頭腔は、口腔と鼻腔の後方、食道と喉頭の上に位置する筋性管状の空間であり、咽頭壁によって囲まれています(Moore et al., 2022)。解剖学的に前後径約5cm、上下径約12-14cmで、最も広い部分の横径は約4cmです(Standring, 2020)。咽頭腔は頭蓋底から第6頸椎の高さまで延び、上方は蝶形骨体と後頭骨底部に、下方は輪状軟骨の下縁で食道に連続しています(Drake et al., 2019)。
区分
咽頭腔は上から下へ以下の3つの部分に区分されます(Drake et al., 2019; Moore et al., 2022):
- 鼻咽頭(上咽頭、Nasopharynx):鼻腔の後方、軟口蓋の上方に位置し、主に呼吸に関与します(Standring, 2020)。咽頭扁桃(アデノイド)が上壁と後壁に存在し、リンパ組織による免疫防御の最前線を形成します(Netter, 2023)。耳管咽頭口(耳管開口部)が両側壁に開口し、中耳腔と連絡しています(Moore et al., 2022)。耳管隆起と耳管扁桃も存在し、Waldeyer咽頭輪の一部を構成します(Standring, 2020)。
- 口咽頭(中咽頭、Oropharynx):口腔の後方、軟口蓋と喉頭蓋上縁の間に位置し、食物と空気の両方が通過します(Drake et al., 2019)。口峡を介して口腔と連続し、前壁は舌根と喉頭蓋で構成されます(Moore et al., 2022)。口蓋扁桃が口蓋舌弓と口蓋咽頭弓の間の扁桃窩に位置し、舌扁桃が舌根部に存在して、免疫学的バリアを形成します(Standring, 2020; Netter, 2023)。
- 喉頭咽頭(下咽頭、Laryngopharynx):喉頭の後方、喉頭蓋上縁から輪状軟骨下縁(第6頸椎の高さ)まで延び、食道の上方に位置し、主に食物の通過に関与します(Moore et al., 2022)。梨状陥凹(梨状窩、Piriform recess)が喉頭の両側に存在し、異物が停留しやすい部位として臨床的に重要です(Drake et al., 2019)。輪状後部(postcricoid region)と咽頭後壁も喉頭咽頭の重要な解剖学的構成要素です(Standring, 2020)。
構造
咽頭腔の壁は、外側から内側に向かって、咽頭筋(主に上・中・下咽頭収縮筋)、咽頭筋膜(咽頭頭底筋膜と咽頭後筋膜)、粘膜下組織、粘膜で構成されています(Moore et al., 2022; Standring, 2020)。咽頭筋膜は咽頭基底部で頭蓋底に付着し、咽頭の支持構造として機能します(Drake et al., 2019)。粘膜は部位により異なり、鼻咽頭は呼吸上皮(多列線毛円柱上皮)、口咽頭と喉頭咽頭は非角化重層扁平上皮で覆われています(Standring, 2020)。粘膜下組織には豊富な血管叢とリンパ組織が存在し、免疫機能と栄養供給に重要な役割を果たします(Netter, 2023)。
血管と神経支配
咽頭腔への動脈血供給は、主に外頸動脈の分枝である上行咽頭動脈、顔面動脈の扁桃枝、上甲状腺動脈、舌動脈の背側舌枝から行われます(Moore et al., 2022)。静脈還流は咽頭静脈叢から内頸静脈へ流入します(Drake et al., 2019)。神経支配は、運動神経が迷走神経(第X脳神経)と副神経(第XI脳神経)、知覚神経が三叉神経上顎枝、舌咽神経(第IX脳神経)、迷走神経から供給されます(Standring, 2020)。
臨床的意義
咽頭腔は解剖学的位置と機能から、様々な臨床的意義を持ちます(Netter, 2023; Moore et al., 2022):
- 咽頭腔は呼吸器系と消化器系の交差点として、誤嚥防止の重要な役割を担っています。嚥下時には軟口蓋の挙上と喉頭蓋の後屈により、食塊が気道へ侵入しないように制御されます(Drake et al., 2019)。
- 咽頭扁桃肥大(アデノイド増殖症)は小児の上気道閉塞や反復性中耳炎の原因となります。鼻咽頭の閉塞により口呼吸や睡眠障害を引き起こし、耳管機能障害により滲出性中耳炎を併発することがあります(Moore et al., 2022; Standring, 2020)。
- 咽頭癌は特に喉頭咽頭部(特に梨状陥凹と輪状後部)に好発し、嚥下困難、嗄声、咽頭痛、頸部リンパ節腫脹などの症状をきたします(Netter, 2023)。口咽頭癌ではヒトパピローマウイルス(HPV)関連癌の増加が報告されています(Standring, 2020)。
- 睡眠時無呼吸症候群では、咽頭腔(特に口咽頭レベル)の閉塞が主な病態となります。軟口蓋の過長、口蓋扁桃肥大、舌根沈下などが上気道の虚脱を引き起こします(Drake et al., 2019; Moore et al., 2022)。
- 異物誤嚥では、梨状陥凹が異物の停留部位として重要であり、内視鏡検査時の注意深い観察が必要です(Standring, 2020)。
- Zenker憩室は咽頭収縮筋の間隙(Killian三角)から発生する咽頭憩室で、嚥下困難や逆流症状を引き起こします(Moore et al., 2022)。