内側腱下包(腓腹筋の)Bursa subtendinea musculi gastrocnemii medialis

J0513 (右下腿の筋(第二層):後方からの図)
解剖学的特徴
腓腹筋の内側腱下包は、膝窩部に存在する重要な滑液包の一つです(Standring, 2020)。この構造は以下の解剖学的特徴を持ちます:
- 位置と境界:腓腹筋内側頭(脛側頭)の起始腱と膝関節包の後面との間に位置します(Moore et al., 2017)。具体的には、大腿骨内側顆の後面と腓腹筋内側頭の腱の間に介在します。
- 形態と大きさ:通常、長径2-3cm程度の扁平な嚢状構造を呈します(Netter, 2018)。滑液包の壁は薄い結合組織と滑膜から構成されています。
- 周辺構造との関係:
- 前方:大腿骨内側顆の関節軟骨面および膝関節包
- 後方:腓腹筋内側頭の起始腱
- 内側:半膜様筋腱および半膜様筋滑液包との近接
- 外側:膝窩動静脈および脛骨神経
- 膝関節との交通:約30-50%の症例で膝関節腔と交通しているとされており(Janzen et al., 1999)、この交通路を介して関節液が滑液包内に流入することがあります。
機能と生理学
- 摩擦軽減機能:腓腹筋内側頭の腱と大腿骨内側顆の間の摩擦を軽減し、膝関節の屈伸運動時に円滑な滑走を可能にします(Benjamin and Ralphs, 2008)。
- 圧力分散:膝関節屈曲時に発生する局所的な圧力を分散し、腱や関節包の損傷を予防します。
- 潤滑作用:滑液包内の滑液が潤滑剤として作用し、特に深屈曲や強い筋収縮時の機械的ストレスを緩和します(Standring, 2020)。
臨床的意義
- ベーカー嚢腫(Baker's cyst)との関連:この滑液包が膝関節と交通している場合、関節内の炎症や関節液の増加により滑液包が拡大し、膝窩部に嚢腫性腫瘤を形成することがあります(Frush and Noyes, 2015)。これがベーカー嚢腫の一つの形成機序となります。
- 滑液包炎:過度の運動や反復的な膝の屈伸動作により、この滑液包に炎症が生じることがあります(腓腹筋滑液包炎)。症状として膝窩部の疼痛、腫脹、圧痛が出現します(Acebes et al., 2009)。
- 画像診断:
- 超音波検査:滑液包の腫大や内部の液体貯留を容易に描出できます(Ward et al., 2007)
- MRI検査:T2強調画像で高信号を呈し、周囲組織との関係や膝関節との交通の有無を評価できます(Torreggiani et al., 2002)
- 鑑別診断:膝窩部腫瘤として、半膜様筋滑液包、膝窩動脈瘤、神経鞘腫、ガングリオン、軟部組織腫瘍などとの鑑別が必要です(Handy, 2001)。
- 治療上の考慮:
- 保存的治療:安静、冷却療法、非ステロイド性抗炎症薬の使用
- 穿刺吸引:嚢腫が大きく症状が強い場合に実施
- ステロイド注入:炎症が顕著な場合
- 外科的切除:保存的治療に抵抗性で症状が持続する場合、または膝関節内病変(半月板損傷、変形性膝関節症など)の治療と併せて実施(Sansone et al., 2011)
この滑液包の理解は、膝窩部痛や腫瘤を訴える患者の診断と治療において重要であり、整形外科、スポーツ医学、リハビリテーション医学の分野で臨床的に重要な意義を持ちます。