深頭(短母指屈筋の)Caput profundum (Musculus flexoris pollicis brevis)
短母指屈筋の深頭は、手の固有筋群に属する重要な筋構造で、以下のような解剖学的特徴と臨床的意義を持ちます(Standring, 2020):

J0484 (右の母指球の深筋)
解剖学的特徴
- 起始:主に大菱形骨と第2、第3中手骨底から起こります(Moore et al., 2018)。
- 停止:母指基節骨基部の内側種子骨に停止します(Netter, 2019)。
- 位置:長母指屈筋腱の深層(掌側)に位置し、母指内転筋と隣接しています(Clemente, 1985)。
- 支配神経:尺骨神経(C8, T1)の深枝による支配を受けます(Spinner, 2003)。
- 血液供給:尺骨動脈と橈骨動脈の深掌枝から分枝した小動脈によって栄養されます(Taylor and Schwarz, 1970)。
機能
- 主要機能:母指の中手指節関節(MP関節)の屈曲を補助します(Kapandji, 2007)。
- 副次機能:母指の対立運動にも関与し、精密把握動作に貢献します(Napier, 1956)。
- 浅頭との協調:短母指屈筋の浅頭(正中神経支配)と協調して母指の巧緻運動を可能にします(Tubiana et al., 1996)。
臨床的意義
- 尺骨神経障害:Guyon管症候群や尺骨神経損傷では、深頭の機能低下により、母指の巧緻運動が障害されます(Shea and McClain, 1969)。
- 母指球萎縮:進行した尺骨神経麻痺では、短母指屈筋深頭を含む母指球筋群の萎縮が観察されます(Seddon, 1972)。
- 神経支配の変異:約15%の症例では、深頭が正中神経からも部分的に支配を受ける解剖学的変異が報告されています(Rowntree, 1949)。
この筋は母指の精密把握や対立運動において重要な役割を果たし、手の機能的解剖学を理解する上で重要な構造です。また、神経支配の特性から、神経損傷の臨床診断においても重要な指標となります(Spinner and Kaplan, 1976)。
参考文献