閉鎖筋膜 Fascia obturatoria

1. 解剖学的特徴

閉鎖筋膜は、骨盤部の筋や構造物を覆う薄い繊維状の結合組織です。解剖学的には、小骨盤の側壁を構成し、内閉鎖筋(musculus obturatorius internus)の内面を被覆しています(Standring, 2015)。この筋膜は閉鎖孔の内側縁から始まり、内閉鎖筋の表面に広がっています。特に壁側骨盤筋膜(parietal pelvic fascia)の一部として、内閉鎖筋の内面を被う部分は線維が密で強靭な構造となっています(Moore et al., 2018)。

2. 機能的役割

閉鎖筋膜は、骨盤底の重要な支持構造となり、骨盤臓器(膀胱、直腸、女性では子宮など)を適切な位置に維持する役割を担っています(Netter, 2019)。また、閉鎖神経(obturator nerve)や閉鎖動静脈(obturator vessels)が通過する閉鎖管(obturator canal)の形成にも関与しています(Loukas et al., 2016)。

3. 臨床的意義

臨床的には、骨盤臓器脱(pelvic organ prolapse)の病態において、この筋膜の脆弱化や損傷が関与することがあります(DeLancey, 2016)。また、閉鎖ヘルニア(obturator hernia)では、閉鎖管を通じて腹膜前脂肪や小腸が脱出する際に、この筋膜の解剖学的理解が診断・治療に重要となります(Skandalakis et al., 2017)。骨盤手術(特に前立腺全摘術や子宮摘出術など)においても、閉鎖筋膜の識別と適切な処理が、周囲の神経血管構造の保護や術後合併症の予防に不可欠です(Walsh et al., 2020)。

4. 参考文献

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J0801 (男性の肛門挙筋:上面からの図)

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J0803 (男性の右側肛門挙筋と尿生殖三角:後上方からの図)

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J0805 (男性の会陰筋:下方からの図)

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J0808 (男性骨盤:前面からの切断面)

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J0961 (右側の骨盤の神経:左方からの図)