鼡径鎌 Falx inguinalis

J0446 (男性右側の鼡径管(第3層):前方からの図)

J0447 (男性の右側の鼡径管の背側壁:背側図)

J0591 (男性右側の閉鎖動脈(破格))
鼡径鎌(inguinal falx)は、腹壁の深部に位置する解剖学的に重要な構造であり、以下の詳細な特徴を有しています(Standring, 2016):
解剖学的特徴
- 腹横筋(transversus abdominis muscle)と内腹斜筋(internal oblique muscle)の腱膜が融合して形成される共通腱膜構造です(Moore et al., 2018)。
- 恥骨結合外側の恥骨稜(pubic crest)と恥骨櫛(pecten pubis)に強固に付着します(Skandalakis et al., 2006)。
- 形態学的には、腹横筋腱膜(transversalis fascia)から恥骨櫛靭帯(pectineal ligament)へと弓状に走行する線維束として観察されます(Nagayama et al., 2015)。
- 厚さと発達度合いには個人差があり、男性では一般的に女性より発達しています(Asakage, 2018)。
- 鼡径管(inguinal canal)の後壁を構成し、内鼡径輪(deep inguinal ring)の内側部分を補強しています(Fruchaud, 1956)。
位置関係
- 外側では鼡径靭帯(inguinal ligament)と接し、内側では恥骨櫛と連続しています(Mirilas and Skandalakis, 2002)。
- 深鼡径輪の内側縁に位置し、精索(または円靭帯)の通過部位の補強に寄与しています(Anson and McVay, 1960)。
臨床的意義
- 鼡径ヘルニアの病態生理:鼡径鎌の脆弱化は直接鼡径ヘルニア(direct inguinal hernia)の発生に関与しています。特にハッセルバッハ三角(Hesselbach's triangle)を通過するヘルニアでは重要です(Read, 2011)。
- 外科的修復:鼡径ヘルニア手術(特にリヒテンシュタイン法やバッシーニ法など)では、鼡径鎌の強化や補強が術式の重要な要素となります(Amid, 2004)。
- 加齢変化:年齢とともに鼡径鎌の結合組織が弱くなり、ヘルニア発生リスクが上昇します(Kurzer et al., 1998)。
- 画像診断:CT、MRIなどの画像検査で鼡径部の評価を行う際の重要な解剖学的指標となります(van den Berg et al., 2014)。
このように鼡径鎌は単なる解剖学的構造ではなく、鼡径部の生体力学的安定性を維持し、腹腔内圧上昇時に腹壁の完全性を保つ上で極めて重要な役割を担っています(Lytle, 2016)。特に立位での腹圧上昇時(咳、くしゃみ、排便など)には鼡径管の後壁に対する圧力が増大するため、鼡径鎌の構造的完全性が鼡径ヘルニア予防において重要な意味を持ちます(Condon, 1995)。
参考文献