日本人のからだ(堀口正治 2000)によると
弓状線の位置と形状
弓状線、またはダグラス線とも呼ばれるものは、腹直筋鞘後面の存在する部分です。上前腸骨棘のレベルで腹直筋鞘後面が消失し、その下端部に自由縁として現れます。弓状線の下部には、下腹壁動静脈が腹直筋鞘内に入り、上行して上腹壁動静脈枝と吻合します。弓状線は個体により明瞭な弓状の線になることもあれば、その存在がはっきりしないこともあります。その位置も異なり、臍の下方0.5~7cmの範囲に存在するとされています。
弓状線の成因については以下のような説があります: ① 胎児期の膀胱の位置と緩解があるとする説 (Gegenbaur) ② 下腹壁動静脈の通路のために存在するとする説 (Henle) ③ 胎生期に臍動脈を保護するための装置とする説 (K.A. Douglas) ④ 腹膜の鞘状突起が腹壁を破って出ることに関係するとの説 (Eisler)
弓状線は、内科医・解剖学者のJames Douglas (1675-1742)によって初めて記載され、彼の名前はダグラス窩にもつけられました。
北條(1980)は、26例の弓状線について報告しています。その中には、弓状線が存在せず、腹直筋鞘後葉が直接恥骨結合上縁まで白線に達し、下腹壁動脈が貫通する孔が存在する例や、左右両側に2本の弓状線が存在する例も含まれています。弓状線の位置は、臍輪中心から尾側へ2-8 cmの高さ、または恥骨結合から頭側へ4-13 cmの高さに位置していました。通常は、臍輪の中心から尾側で4-7 cmの範囲(88.0%, 22/25例) または恥骨結合上縁から頭側へ7-12 cmの範囲(92.0%, 23/25例)に弓状線が存在します(表37) (北條, 1980)。菊池(1986)は、日本人胎児の弓状線を40側に観察した結果、重複弓状線は認められなかったと報告しています。そのため、北條(1980)が観察した重複弓状線は非常にまれな例と考えられます。
表37 弓状線の位置(%)
距離(cm) | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
臍・弓状線 | 1 (4.0) | 1 (4.0) | 6 (24.0) | 7 (28.0) | 2 (8.0) | 7 (28.0) | 1 (4.0) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 25 (100.0) |
恥骨結合・弓状線 | 0 | 0 | 1 (4.0) | 0 | 0 | 3 (12.0) | 4 (16.0) | 5 (20.0) | 4 (16.0) | 4 (16.0) | 3 (12.0) | 1 (4.0) | 25 (100.0) |
臍・弓状線: 臍の中心から弓状線までの距離を四捨五入した値です。
恥骨結合・弓状線: 恥骨結合上縁から弓状線までの距離です。
弓状線が2本認められる例(2例、4.0%)については、上位の弓状線の位置を測定しました。
(北條,1980)