下後鋸筋 Musculus serratus posterior inferior

下後鋸筋は背部深層の浅層に位置する薄い四角形の筋肉で、背部の呼吸補助筋として機能します (Standring, 2021)。この筋肉は上後鋸筋と対をなす構造ですが、機能的連続性はありません (Drake et al., 2019)。

J451.png

J0451 (腰部の筋(第2層):背面図)

J453.png

J0453 (広い背筋(第3層):背面図)

解剖学的特徴

起始と停止

下後鋸筋は第11・12胸椎および第1・2腰椎の棘突起と棘上靱帯から起始し、胸腰筋膜の深葉を介して付着します (Standring, 2021; Moore et al., 2018)。筋束は外上方に向かって走行し、第9〜12肋骨の下縁および外側面に停止します。停止部は肋骨角の外側に位置し、各肋骨に対して鋸歯状の付着パターンを形成します (Moore et al., 2018)。

形態と構造

この筋は薄い四辺形を呈し、その上縁は第8肋骨の高さに位置します。外側縁は肋骨角よりも外側に及び、筋線維は内下方から外上方へ斜めに走行します (Drake et al., 2019)。筋の厚さは約2〜3mmで、他の背部筋に比べて著しく薄く、腱膜様の構造を持ちます (Platzer, 2018)。

解剖学的関係

下後鋸筋は深層で肋間筋と直接接触し、表層は広背筋に完全に覆われています (Standring, 2021)。内側では胸腰筋膜および脊柱起立筋と関連し、外側では前鋸筋の後縁に近接します。筋の下縁は腰三角の上縁を形成する解剖学的指標となります (Moore et al., 2018)。

解剖学的変異

肋骨への付着数には個体差があり、3本から5本の肋骨に付着する変異が報告されています。約15〜20%の症例で筋の一部または全体が欠如することがあり、特にアジア系集団でこの変異の頻度が高いとされています (Bergman et al., 2019)。また、筋束の分離や二重化などの変異も稀に認められます (Platzer, 2018)。

神経支配と血管供給

神経支配

下後鋸筋は第9〜12胸神経の外側皮枝深枝によって支配されます (Standring, 2021)。これらの神経は肋間神経から分枝し、筋の深面に進入します。神経支配のパターンは多分節性であり、各筋束が対応する脊髄レベルの神経によって支配される傾向があります (Moore et al., 2018)。

動脈供給

血液供給は主に後肋間動脈の背枝、肋間下動脈、および第1・2腰動脈の背枝から受けます (Drake et al., 2019)。これらの動脈は筋の深面から進入し、筋内で吻合網を形成します。静脈系は同名の静脈を介して奇静脈系に排出されます (Standring, 2021)。

リンパ排液

リンパ排液は傍脊椎リンパ節および後縦隔リンパ節に向かいます。この排液経路は、筋膜性感染症や炎症性病変の進展経路として臨床的に重要です (Moore et al., 2018)。

機能と生体力学