後腹(後頭前頭筋の)Venter occipitalis (Musculus occipitofrontalis)

後頭前頭筋の後腹(後頭筋、M. occipitalis)は頭部の重要な表層筋であり、以下の詳細な解剖学的特徴と臨床的意義を持ちます(Standring, 2021):

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J0077 (頭蓋骨、筋の起こる所と着く所:右方からの図)

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J0415 (右側の頭頚部の筋:後方からの図)

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J0930 (右の頚神経叢の枝:右側からの図)

解剖学的構造と形態

後頭筋は薄く平坦な四角形の筋で、後頭部の皮下に位置します(Moore et al., 2018)。頭蓋冠(calvaria)を覆う筋群の後方部分を構成し、表情筋(facial muscles)の一部として分類されます。筋線維は概ね垂直方向に走行し、下方の骨性付着部から上方の腱膜性構造へと向かいます(Clemente, 2022)。筋の厚さは約2-3mmで、個体差があります(Watanabe et al., 2017)。

起始と停止

起始:外後頭隆起(external occipital protuberance)と上項線(superior nuchal line)の外側2/3から起始します(Netter, 2019)。この起始部は後頭骨の骨膜に強固に付着しています。

停止:帽状腱膜(galea aponeurotica、頭蓋腱膜、epicranial aponeurosis)に停止します(Dutta, 2019)。この腱膜は頭蓋冠を覆う強靭な線維性シートで、前腹(前頭筋)と後腹(後頭筋)を連結し、両筋の機能的協調を可能にしています。帽状腱膜の厚さは約0.5mmで、非常に強靭な構造です。

神経支配

顔面神経(第VII脳神経、facial nerve)の後頭枝(posterior auricular branch)によって支配されています(Sinnatamby, 2020)。この神経は耳下腺の後方で顔面神経本幹から分岐し、胸鎖乳突筋の表面を通過して後頭部に至ります。神経走行の理解は、顔面神経麻痺の診断と治療において重要です(Jablonski, 2019)。顔面神経は第二咽頭弓(鰓弓)由来の特殊内臓遠心性線維(special visceral efferent fibers)を含み、全ての表情筋を支配します(Larsen et al., 2021)。

血液供給と静脈還流

動脈供給:主に後頭動脈(occipital artery、外頸動脈の分枝)と浅側頭動脈(superficial temporal artery)の後方枝から栄養を受けます(Drake et al., 2020)。後頭動脈は外頸動脈から分岐後、内頸静脈と舌下神経の深部を走行し、胸鎖乳突筋と頭板状筋の間を通過して後頭部に至ります。

静脈還流:対応する後頭静脈(occipital vein)と浅側頭静脈系を通じて行われます。後頭静脈は内頸静脈または外頸静脈に流入します。また、頭皮の静脈は導出静脈(emissary veins)を介して頭蓋内の静脈洞と交通しており、感染拡大の経路となりうるため臨床的に重要です(Standring, 2021)。

機能と作用機序

解剖学的層構造(SCALP)

後頭筋を含む頭皮の解剖学的層構造は、外側から以下の5層で構成されます(Standring, 2021):