関節唇 Labrum acetabuli

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J0332 (右股関節:後方からの図)

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J0334 (右の股関節:前面切断図、前方からの後部切断図)

解剖学的構造

関節唇(labrum acetabuli)は、股関節の寛骨臼縁に付着する線維軟骨性の環状構造物です(Seldes et al., 2001)。以下の解剖学的特徴を持ちます:

  1. **形態と位置:**寛骨臼の骨性縁全周に沿って付着し、関節窩を縁取るように存在します。横断面では三角形を呈し、その基部は寛骨臼縁に強固に結合しています(Ferguson et al., 2003)。
  2. **構造:**線維軟骨(fibrocartilage)から構成され、硝子軟骨よりも高い引張強度を持ちます。外層は密性結合組織、内層は線維軟骨で構成される層状構造を呈します(Kelly et al., 2005)。
  3. **寸法:**関節窩の直径を約10%拡大させ、深さを約20-30%増加させることで、大腿骨頭の被覆率を向上させています(Pfirrmann et al., 2008)。
  4. **遊離縁:**関節腔に面する遊離縁(free edge)はやや内方に向かって狭まっており、大腿骨頭を包み込むような形状(馬蹄形)を形成し、陰圧効果による関節の安定化に寄与します(Crawford et al., 2007)。
  5. **血管分布:**関節唇の外側1/3には豊富な血管網が分布していますが、内側2/3は相対的に血管に乏しく、これが損傷時の治癒能力に影響を及ぼします(Seldes et al., 2001)。
  6. **神経支配:**関節唇には自由神経終末やルフィニ小体、パチニ小体などの機械受容器が存在し、固有受容感覚(proprioception)と疼痛感覚の伝達に関与しています(Kim & Azuma, 1995)。
  7. **関節包との関係:**関節唇の外表面には関節包が付着し、寛骨臼横靭帯(transverse acetabular ligament)は寛骨臼切痕を橋渡しする形で関節唇と連続しています(Ferguson et al., 2003)。

機能的役割

  1. **機械的安定性:**大腿骨頭の接触面積を増加させることで、関節面への応力分散を図り、関節軟骨の保護に貢献します(Ferguson et al., 2000)。
  2. **陰圧効果:**関節唇が形成する密閉性により関節腔内に陰圧(negative intra-articular pressure)が生じ、大腿骨頭の求心性保持に重要な役割を果たします(Crawford et al., 2007)。
  3. **関節液の保持:**関節唇は関節液を関節腔内に保持し、潤滑機能と栄養供給を維持します(Ferguson et al., 2000)。
  4. **衝撃吸収:**荷重時の衝撃を吸収し、骨性構造への過度な負荷を軽減します(Philippon et al., 2007)。

臨床的意義

  1. **関節唇損傷(Labral tear):**スポーツ外傷、股関節インピンジメント症候群(femoroacetabular impingement: FAI)、変形性股関節症の初期段階で関節唇損傷が生じます(McCarthy et al., 2001)。症状として鼠径部痛、クリック音、可動域制限などが見られます。
  2. **股関節インピンジメント症候群:**大腿骨頭頸部と寛骨臼の形態異常により、関節運動時に関節唇が繰り返し挟み込まれることで損傷が生じます。Cam型(大腿骨側の異常)、Pincer型(寛骨臼側の異常)、混合型に分類されます(Ganz et al., 2003)。
  3. **診断:**MRI検査(特にMRアルトログラフィー)が関節唇損傷の診断に有用です(Czerny et al., 1996)。関節鏡検査は診断と治療を兼ねたゴールドスタンダードとされます(McCarthy et al., 2001)。