大坐骨孔 Foramen ischiadicum majus
大坐骨孔は骨盤の後外側壁に位置する重要な解剖学的構造です。この開口部は、骨盤腔と殿部を連結する主要な通路となっています(Standring, 2020)。

J0325 (右の骨盤の靱帯:前面から少し上からの図)

J0326 (右側の骨盤の靱帯:後方からの図)

J0506 (右大腿の筋:背面図)
解剖学的構造
- 形成:寛骨(腸骨、坐骨、恥骨)の大坐骨切痕と、それを下方から閉じる仙結節靱帯および仙棘靱帯によって形成されます(Moore et al., 2018)。
- 境界:
- 上方・前方:大坐骨切痕(坐骨体部と腸骨の後縁)
- 下方・後方:仙棘靱帯(上部)と仙結節靱帯(下部)
- 区分:梨状筋(piriformis muscle)の通過により機能的に二つの部分に分けられます(Agur and Dalley, 2021)。
- 梨状筋上孔(suprapiriform foramen):梨状筋の上方部分
- 梨状筋下孔(infrapiriform foramen):梨状筋の下方部分
通過構造物
- 梨状筋上孔を通過するもの(Netter, 2019):
- 上殿動脈(superior gluteal artery)
- 上殿静脈(superior gluteal vein)
- 上殿神経(superior gluteal nerve):L4-S1由来、中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋を支配
- 梨状筋下孔を通過するもの(Drake et al., 2020):
- 坐骨神経(sciatic nerve):L4-S3由来、下肢最大の神経
- 下殿動脈(inferior gluteal artery)
- 下殿静脈(inferior gluteal vein)
- 下殿神経(inferior gluteal nerve):L5-S2由来、大殿筋を支配
- 内陰部動脈(internal pudendal artery)
- 内陰部静脈(internal pudendal vein)
- 陰部神経(pudendal nerve):S2-S4由来、外陰部と会陰部の感覚と運動を支配
- 後大腿皮神経(posterior femoral cutaneous nerve):S1-S3由来、殿部と大腿後面の皮膚の感覚を支配
臨床的意義
1. 梨状筋症候群(Piriformis Syndrome)
梨状筋症候群は、梨状筋の肥大、痙攣、または解剖学的変異により、大坐骨孔を通過する坐骨神経が圧迫されることで発症する神経障害です(Michel et al., 2013)。
病態生理
- 梨状筋の過度な緊張や肥大により、梨状筋下孔が狭窄し、坐骨神経が機械的に圧迫されます(Jankovic et al., 2013)。
- 解剖学的変異として、坐骨神経が梨状筋を貫通する例(約15-20%)や、梨状筋が二腹に分かれている例が報告されており、これらが症候群の発症リスクを高めます(Beaton and Anson, 1937)。
- 長時間の座位、外傷、過度な運動、骨盤の不安定性などが誘因となります(Hopayian and Danielyan, 2018)。
臨床症状
- 殿部の深部痛:患側の殿部に持続的な鈍痛または鋭い痛みが生じます。
- 坐骨神経痛様症状:殿部から大腿後面、下腿後外側へ放散する疼痛、しびれ、灼熱感を訴えます。