嚢状陥凹(下橈尺関節の) Recessus sacciformis articulationis radioulnaris distalis

J0322 (右手の関節:手根を回外位とし、手の甲に平行に切断して関節腔を示した図)
解剖学的構造
**位置と範囲:**下橈尺関節の嚢状陥凹は、遠位橈尺関節(distal radioulnar joint)の関節腔の一部として、尺骨頭と橈骨の尺骨切痕(ulnar notch)の間に位置します(Spinner & Kalin, 1992)。この陥凹は関節腔から近位方向に約5-10mm伸展し、前腕の回内・回外運動時に重要な役割を果たします(Palmer & Werner, 1981)。
構造的特徴:
- 滑膜性構造:嚢状陥凹は主に滑膜(synovial membrane)から構成される薄い袋状の構造で、関節液を含んでいます(Gray, 2005)。
- 関節包:下橈尺関節の関節包は比較的広くゆるやかな構造ですが、前後面(palmar and dorsal surfaces)で橈骨と尺骨を横断する線維束によって補強されています(Netter, 2014)。
- 三角線維軟骨複合体(TFCC)との関係:嚢状陥凹は三角線維軟骨複合体の近位部分と密接に関連しており、この複合体によって手根関節腔とは分離されています(Palmer, 1989)。
**形状:**関節腔は横断面でL字型またはC字型を呈し、尺骨頭を部分的に包み込むように配置されています。この形状により、前腕の回内・回外運動時に尺骨頭が橈骨の尺骨切痕内で滑らかに回転することが可能となります(Ekenstam, 1985)。
機能的意義
生体力学的機能:
- 潤滑作用:滑膜から分泌される関節液により、前腕の回内(pronation)・回外(supination)運動時の摩擦を最小限に抑えます(Hui & Linscheid, 1982)。
- 衝撃吸収:手首と前腕にかかる負荷を分散し、クッションとしての役割を果たします(Palmer & Werner, 1984)。
- 可動域の確保:嚢状陥凹の存在により、前腕の回旋運動における約180度の可動域が実現されています(Kapandji, 2012)。
臨床的重要性
関連する病態:
- 関節炎:関節リウマチや変形性関節症により嚢状陥凹に炎症や肥厚が生じることがあります(Nakamura et al., 1996)。
- 滑膜炎:過度の使用や外傷により、嚢状陥凹の滑膜に炎症が生じ、痛みや腫脹を引き起こすことがあります(Rettig, 2004)。
- TFCC損傷:三角線維軟骨複合体の損傷に伴い、嚢状陥凹への影響や関節液の漏出が生じる場合があります(Mikić, 1995)。