上橈尺関節 Articulatio radioulnaris proximalis

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J0319 (右前腕の骨と靱帯:手の回旋位の掌側からの図)

解剖学的構造

上橈尺関節は、橈骨頭の関節環状面(Circumferentia articularis radii)と尺骨の橈骨切痕(Incisura radialis ulnae)との間に形成される車軸関節(蝶番関節の一種)です(Gray, 2021; Standring, 2020)。この関節は肘関節複合体の一部を構成し、同一の関節包内に腕尺関節・腕橈関節とともに収められています(Neumann, 2017)。

構成要素と靱帯構造

  1. **橈骨輪状靱帯(Ligamentum anulare radii):**尺骨の橈骨切痕前縁から後縁へと走行し、橈骨頭の関節環状面を輪状に取り囲む強靱な線維性組織です(Standring, 2020)。この靱帯により、橈骨頭は尺骨に対して保持されながらも回旋運動が可能となります(Neumann, 2017)。
  2. **方形靱帯(Ligamentum quadratum):**尺骨の橈骨切痕下縁から橈骨頚部に付着し、上橈尺関節の下界を形成します(Martin et al., 1958)。この靱帯は関節包の滑膜を下方から支持し、橈骨頭の過度な移動を制限する役割を果たします(Spinner & Kaplan, 1970)。
  3. **関節包:**上橈尺関節の関節包は、腕尺関節・腕橈関節と連続しており、これら3つの関節は共通の関節腔を形成しています(Gray, 2021)。

運動機能

上橈尺関節は下橈尺関節と機能的に協調し、前腕の回旋運動(回内pronationおよび回外supination)を可能にします(Neumann, 2017; Kapandji, 2019)。回外時には橈骨と尺骨が平行に配列し、回内時には橈骨が尺骨の前方を交差するように回旋します。この運動の回転軸は、橈骨頭の中心から尺骨頭の中心を貫く垂直軸となります(Morrey & Chao, 1976)。

臨床的意義

  1. **橈骨頭脱臼:**小児に好発する外傷で、橈骨輪状靱帯が橈骨頭から逸脱することで発生します(Malek et al., 2010)。特に肘内障(pulled elbow)として知られ、急激な牽引力により生じます(Schunk, 1990)。
  2. **Monteggia骨折:**尺骨近位部の骨折と橈骨頭脱臼を伴う複合損傷です(Bado, 1967)。橈骨輪状靱帯の損傷を伴うことが多く、外科的治療が必要となる場合があります(Ring et al., 1998)。
  3. **関節リウマチ:**滑膜炎により関節破壊が進行し、橈骨頭の変形や脱臼をきたすことがあります(Ewald et al., 1993)。
  4. **先天性橈骨頭脱臼:**出生時から橈骨頭が脱臼している状態で、橈骨輪状靱帯の形成不全や低形成が原因となります(Almquist et al., 1969)。

神経・血管支配

上橈尺関節の感覚神経支配は、主に正中神経、橈骨神経、筋皮神経の関節枝により行われます(Gardner, 1948)。血液供給は、橈側反回動脈、尺側反回動脈、および骨間反回動脈などの肘関節周囲の動脈網から受けます(Standring, 2020)。

上橈尺関節は、前腕の複雑な回旋運動を実現する上で不可欠な関節であり、その機能障害は日常生活動作に大きな影響を及ぼします(Kapandji, 2019)。

参考文献