横突間靱帯 Ligamenta intertransversaria
横突間靱帯は、隣接する椎骨の横突起間を連結する線維性結合組織で、脊柱の分節的安定性に重要な役割を果たしています。この靱帯の解剖学的特徴と臨床的意義について以下に詳述します。

J0304 (右側の肋骨と関連する椎骨、靱帯)

J0305 (右側の肋骨と関連する椎骨、および靱帯:背面および右側からの図)
1. 解剖学的特徴
基本構造と配置
- 横突間靱帯は、隣接する2つの椎骨の同側の横突起間に存在し、これらを強固に連結する線維性結合組織です (Bogduk, 2005; Standring, 2020)。
- この靱帯は脊柱全体に存在しますが、その発達程度と形態は脊柱の各部位によって著しく異なります (Cramer and Darby, 2014)。
- 靱帯は主に密性結合組織から構成され、コラーゲン線維が主要な構成成分となっています。線維の配列は力学的負荷の方向に対応しています (Gray et al., 2016)。
部位別の構造的特徴
- 頸椎部:
- 頸椎の横突間靱帯は比較的薄く、弾性線維に富む構造を持ちます (Standring, 2020)。
- 前結節と後結節の間を走行し、複数の層構造を形成することがあります。
- 頸部の可動性が大きいため、靱帯も伸展性に富んでいます (Panjabi et al., 1991)。
- 第1頸椎(環椎)と第2頸椎(軸椎)の間では特に発達が弱く、この部位の大きな可動性を許容しています。
- 胸椎部:
- 胸椎の横突間靱帯は、肋横靱帯(costotransverse ligaments)と密接に関連し、しばしば融合する傾向があります (Bogduk, 2005)。
- 肋骨との連結により、胸椎部の安定性は他の部位と比較して高くなっています。
- 靱帯の厚さは中等度で、線維の配列は比較的規則的です (Gray et al., 2016)。
- 胸郭との一体的な構造により、側屈および回旋運動が制限されます。
- 腰椎部:
- 腰椎の横突間靱帯は最も発達しており、厚く強靭な帯状構造を形成します (Wilse and Metzger, 1985; Bogduk, 2005)。
- 前層と後層に分かれることが多く、その間に脂肪組織や小血管が介在します (Standring, 2020)。
- 前層は腰方形筋の前面に位置し、後層は多裂筋や最長筋と連続します。
- 特にL4-L5およびL5-S1レベルで最も発達しており、これらの部位での大きな力学的負荷に対応しています (Panjabi and White, 2001)。
- 靱帯の幅は10-15mm、厚さは2-4mmに達することがあり、個体差も大きいとされています (McGill, 2007)。
組織学的特徴
- 横突間靱帯は主に密性不規則結合組織から構成され、I型コラーゲンが主要な構成成分です (Yahia et al., 1991)。
- 靱帯内には機械受容器(mechanoreceptors)が豊富に分布しており、固有感覚や疼痛感覚の伝達に関与しています (McLain, 2006)。
- 血管分布は比較的乏しく、このことが損傷後の治癒を遅延させる要因となります (Benjamin et al., 2008)。
- 加齢に伴い、靱帯内のエラスチン含量が減少し、コラーゲンの架橋が増加することで、弾性が低下し硬化が進行します (Nachemson and Evans, 1968)。
2. 神経解剖学的関係
- 脊髄神経との関係:
- 横突間靱帯は、脊髄神経後枝(posterior ramus)の内側枝(medial branch)と外側枝(lateral branch)の間を通過する重要な解剖学的境界となります (Bogduk, 1983; Standring, 2020)。
- 特に腰椎部では、後枝内側枝が横突間靱帯の後面を走行し、椎間関節へ分布します。この解剖学的関係は、椎間関節由来の疼痛に対する神経ブロックの際に重要です (Dreyfuss et al., 1997)。
- 神経支配:
- 横突間靱帯自体は脊髄神経後枝の小枝により感覚神経支配を受けています (McLain, 2006)。
- 靱帯内の機械受容器は、脊柱の位置覚や運動覚に寄与する固有感覚情報を中枢神経系に伝達します (Yahia et al., 1992)。
- 侵害受容器(nociceptors)も存在し、靱帯損傷時の疼痛信号を伝達します (Willard, 1997)。