寛骨臼 Acetabulum

J0212 (右の寛骨:外側からの図)

J0214 (右の寛骨:前下からの図)

J0277 (約8ヶ月胎児の右寛骨:外側からの図)

J0328 (恥骨結合および右骨盤半分とその靱帯:前下方からの図)

J0489 (右側の鼡径部の筋を鼡径靱帯の直下で切断した図)

J0592 (右側の閉鎖動脈の末端分枝(男性の骨盤):腹側からの図)
寛骨臼は、骨盤の外側に位置する半球状の関節窩で、大腿骨頭を受け入れて股関節を形成する重要な解剖学的構造です。体重支持と下肢の運動において中心的な役割を果たし、その形態的特徴と機能的特性は直立二足歩行を可能にする上で不可欠です。以下に解剖学的特徴と臨床的意義を詳述します(Gray and Standring, 2021; Neumann, 2017)。
解剖学的特徴
寛骨臼の解剖学的構造は、その機能的役割を理解する上で極めて重要です。以下、各要素について詳細に記述します。
形態と寸法
- 形態:半球状の深い窩で、直径約5cm、深さ約2.5cmの杯状構造を呈します。この深い窩状構造は大腿骨頭の約40%を包み込み、股関節の安定性に寄与しています(Moore et al., 2018; Neumann, 2017)
- 開口方向:寛骨臼の開口部は前外下方(前方45度、外側15度)を向いており、この方向性により立位時の荷重を効率的に支持し、前方脱臼を防ぐ機能的配置となっています(Levangie and Norkin, 2011)
骨構成と発達
- 構成:寛骨臼は腸骨(上後方の約2/5)、坐骨(後下方の約2/5)、恥骨(前下方の約1/5)の3つの骨が癒合して形成されます。これら3骨の接合部は三放線軟骨(Y字軟骨)と呼ばれる軟骨性結合部で、思春期まで成長を続けます(Drake et al., 2019; Schoenwolf et al., 2014)
- 骨化過程:一次骨化中心は腸骨(胎生8週頃)、坐骨(胎生4ヶ月頃)、恥骨(胎生5-6ヶ月頃)に順次出現し、三放線軟骨は思春期(12-18歳)に完全に骨化します。さらに、思春期には寛骨臼縁に二次骨化中心が出現し、寛骨臼の最終的な形態が完成します(Carlson, 2018)
詳細な構造要素
- 寛骨臼の構造は、関節面と非関節面に大別されます:
- 関節面(月状面、lunate surface/facies lunata):寛骨臼の周辺部を馬蹄形に取り囲む関節軟骨面で、厚さ2-3mmの硝子軟骨で覆われています。上部の荷重域では軟骨がより厚く(3-4mm)、機械的負荷に適応しています。この関節面は滑膜で栄養され、大腿骨頭との間で滑液による潤滑機構が働きます(Tortora and Derrickson, 2018; Gray and Standring, 2021)
- 非関節部(寛骨臼窩、acetabular fossa):寛骨臼の中央下部に位置する陥凹で、関節軟骨を欠き、滑膜下脂肪組織(Haversian gland)と大腿骨頭靱帯(円靱帯、lig. capitis femoris)の付着部が存在します。この脂肪組織は圧力の緩衝材として機能し、円靱帯は大腿骨頭への血液供給路として重要です(Seldes et al., 2001)
- 寛骨臼切痕(acetabular notch):寛骨臼縁の前下部に位置する切痕で、恥骨と坐骨の間に形成されます。この切痕は寛骨臼横靱帯(transverse acetabular ligament)によって橋渡しされ、血管や神経の通路となります。閉鎖動脈の寛骨臼枝がこの部位を通過し、大腿骨頭への血液供給に寄与します(Drake et al., 2019)
- 寛骨臼唇(acetabular labrum):線維軟骨性の輪状構造で、寛骨臼縁に付着し、関節窩の深さを約30%増加させます。厚さ2-3mm、高さ6-8mmで、関節の安定性を高めるとともに、陰圧効果による吸引機構を形成します。また、関節液の密閉と関節内圧の調整にも関与し、関節軟骨の保護機能を担います。血管分布は辺縁部に限られ、中央部は無血管域となっているため、損傷後の治癒が困難です(Seldes et al., 2001; Beck et al., 2004)
生体力学的特性
- 荷重伝達機構:寛骨臼は立位時に体重の約2.5-3倍、走行時には約5-6倍の荷重を受けます。荷重は主に寛骨臼の上方と後上方に集中し、この領域の関節軟骨が最も厚くなっています。寛骨臼の前外下方への開口方向は、この荷重伝達パターンに最適化された配置です(Levangie and Norkin, 2011; Neumann, 2017)
- 関節適合性:寛骨臼と大腿骨頭の球関節構造は、広範囲な運動性(屈曲-伸展、外転-内転、内旋-外旋)を可能にしながら、高い安定性を維持します。この適合性は、関節軟骨の弾性変形と滑液の粘弾性特性によって最適化されています(Moore et al., 2018)
臨床的意義
寛骨臼の解剖学的構造の理解は、多様な股関節疾患の診断と治療において不可欠です。以下、主要な臨床病態について詳述します。
発育性股関節形成不全(DDH)
- 発育異常:先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全、Developmental Dysplasia of the Hip: DDH)では、寛骨臼の発育不全が根本的な病態です。寛骨臼が浅く(寛骨臼角の増大)、大腿骨頭の被覆が不十分となり、脱臼や亜脱臼が生じます。新生児の約1-2%に発症し、女児に多く(男児の約6倍)、家族歴や骨盤位分娩が危険因子です。早期診断と治療(装具療法、整復術)が重要で、放置すると二次性変形性股関節症の原因となります(Weinstein et al., 2018)