上腕骨体 Corpus humeri
上腕骨体は、上腕骨の骨幹を構成する柱状の部分で、上腕全体の強度と構造を支える重要な役割を担っています(Gray and Carter, 2010)。解剖学的特徴と臨床的意義は以下の通りです:

J0428 (右側の大胸筋:前面図(半概略))
解剖学的特徴
- 形状と構造:
- 上半分は円柱状で、下半分は三角柱状に移行します。下端に近づくにつれ、前後方向に圧平され、骨の力学的特性を高めています(Standring, 2021)。
- 皮質骨が厚く、内部には髄腔が存在し、造血組織と脂肪組織を含んでいます(Moore et al., 2018)。
- 特徴的な部位:
- 上部外側面には三角筋粗面(Tuberositas deltoidea)があり、強力な三角筋の付着部として機能します(Netter, 2019)。この粗面は筋収縮時の力を効率的に骨に伝達する構造になっています。
- 下半部には前縁(Margo anterior)、内側縁(Margo medialis)、外側縁(Margo lateralis)が明瞭に観察され、これらの縁は筋膜間中隔の付着部となっています(Agur and Dalley, 2017)。
- 筋の付着部位:
- 後面:上腕三頭筋の内側頭と外側頭が広範囲に付着し、肘関節の強力な伸展を可能にしています(Schünke et al., 2020)。
- 前面下部:上腕筋が広く付着し、肘関節の屈曲の主動作筋となっています(Drake et al., 2015)。
- 内側面:烏口腕筋が停止し、上腕の内転と屈曲に寄与します(Standring, 2021)。
- 外側面:円回内筋と腕橈骨筋の一部が起始します(Moore et al., 2018)。
- 解剖学的構造:
- 内側縁の中央部には栄養孔(Foramen nutricium)が存在し、下方に向かって骨内に進入します。この栄養動脈は上腕深動脈から分枝し、骨髄への主要な血液供給を担っています(Agur and Dalley, 2017)。
- 後面上部には橈骨神経溝(Sulcus nervi radialis)が斜めに走行し、橈骨神経と上腕深動脈が通過します。この溝は解剖学的に重要な神経血管の通路となっています(Netter, 2019)。
臨床的意義
- 骨折パターン:
- 上腕骨体部骨折は全骨折の約3%を占め、直接外力や間接的な捻転力によって生じます(Court-Brown et al., 2015)。骨折線の位置によって橈骨神経損傷のリスクが異なります。
- 橈骨神経溝レベルでの骨折(中部1/3)は、橈骨神経麻痺を合併する可能性が約12%と高くなっています(Ekholm et al., 2006)。
- 神経血管損傷:
- 橈骨神経は骨折時に損傷を受けやすく、手関節と指の伸展障害(手関節下垂)を引き起こします(Shao et al., 2005)。
- 上腕深動脈損傷は比較的稀ですが、骨折片による動脈損傷から重篤な出血を生じることがあります(Chandler et al., 2012)。
- 治療上の考慮点:
- 保存的治療:安定型骨折では機能的装具による治療が可能で、早期からの関節可動域訓練が推奨されます(Sarmiento et al., 2000)。
- 手術的治療:不安定型骨折、開放骨折、神経血管損傷合併例、多発外傷例では髄内釘や骨プレートによる内固定が必要となります(McKee et al., 2014)。
- リハビリテーション:
- 上腕骨体骨折後は、肩関節と肘関節の拘縮予防のためのリハビリテーションが重要です(Volgas et al., 2010)。
- 周囲筋の筋力回復訓練は、上肢機能の早期回復に不可欠です(Clement, 2018)。
参考文献
書籍:
- Agur, A.M.R. and Dalley, A.F. (2017) Grant's Atlas of Anatomy, 14th Edition. — 上腕骨体の解剖学的特徴と周囲構造との関係を詳細な図譜で示している。
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2015) Gray's Anatomy for Students, 3rd Edition. — 学生向けに上腕骨体の基本的解剖学と臨床的関連性をわかりやすく解説している。
- Gray, H. and Carter, H.V. (2010) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 40th Edition. — 解剖学の古典的教科書で、上腕骨の詳細な構造と関連する臨床的意義について記載されている。
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2018) Clinically Oriented Anatomy, 8th Edition. — 臨床的視点から上腕骨体の解剖学的特徴と重要性を解説している。