結節間溝(上腕骨の) Sulcus intertubercularis

J0169 (右上腕骨:前方からの図)

J0172 (右上腕骨、上端部:上方からの図)

J0364 (上肢帯:右肩と上腕は外転しています(ほぼ90°)、仰向けの手のひらは上向き、腹背方向からのX線像)
解剖学的特徴
結節間溝(けっせつかんこう)は、上腕骨近位端の前面に存在する重要な解剖学的構造物です(Standring, 2020)。以下の詳細な特徴を有しています:
- 位置と境界:大結節(結節大、tuberculum majus)と小結節(結節小、tuberculum minus)の間に位置し、両結節から下方に延びる大結節稜(crista tuberculi majoris)と小結節稜(crista tuberculi minoris)によって境界が形成されています(Moore et al., 2017)。
- 形態:約1cm幅の縦走する溝状構造で、上腕骨頭の直下から始まり、骨幹部へと続いています。溝の深さは個人差がありますが、明瞭な陥凹を形成しています(Netter, 2018)。
- 通過構造:この溝内を上腕二頭筋長頭腱(tendo musculi bicipitis brachii caput longum)が滑走します。腱は滑液鞘に包まれており、肩関節包の延長として結節間溝内を保護しています(Standring, 2020)。
- 筋付着部:溝の底部(内側壁)には広背筋(musculus latissimus dorsi)の腱が付着し、さらに大胸筋(musculus pectoralis major)の腱が外側唇に、大円筋(musculus teres major)の腱が内側唇に付着します(Moore et al., 2017)。
- 横結節間靭帯:結節間溝の上部は横結節間靭帯(ligamentum transversum humeri)によって覆われ、上腕二頭筋長頭腱を溝内に保持する役割を果たしています(Neumann, 2016)。
臨床的重要性
- 上腕二頭筋長頭腱炎:結節間溝は上腕二頭筋長頭腱炎の好発部位です。反復的な肩の使用や加齢により、溝内での腱の炎症や摩耗が生じることがあります。触診により結節間溝部に圧痛を認めることが診断の手がかりとなります(Churgay, 2009)。
- Speed testとYergason test:結節間溝部の病変を評価するための理学的検査として、これらの誘発テストが用いられます。陽性所見は溝内での腱障害を示唆します(Magee, 2014)。
- 上腕二頭筋長頭腱断裂:外傷や変性により、溝内または関節内で腱が断裂することがあります。断裂後は筋腹が遠位に移動し、特徴的な「Popeye徴候」を呈します(Elser et al., 2011)。
- 腱脱臼:横結節間靭帯の損傷により、上腕二頭筋長頭腱が結節間溝から内側に脱臼することがあります。肩関節の外転・外旋運動時にクリック音や疼痛を伴うことがあります(Habermeyer et al., 2004)。
- 画像診断:超音波検査やMRIにより、結節間溝内の腱の状態、滑液包の炎症、溝の形態異常などを評価することが可能です。溝が浅い症例では腱の不安定性が生じやすいことが知られています(Cone et al., 1983)。
- 外科的アプローチ:肩関節の前方アプローチの際、結節間溝は重要な解剖学的ランドマークとなります。また、難治性の腱障害に対しては、腱固定術(tenodesis)や腱切離術(tenotomy)が行われることがあります(Friedman et al., 2011)。
参考文献
- Churgay, C.A. (2009). Diagnosis and treatment of biceps tendinitis and tendinosis. American Family Physician, 80(5), 470-476.—上腕二頭筋腱炎および腱症の診断と治療について解説した臨床医向けの文献。
- Cone, R.O., Danzig, L., Resnick, D., & Goldman, A.B. (1983). The bicipital groove: radiographic, anatomic, and pathologic study. American Journal of Roentgenology, 141(4), 781-788.—結節間溝の形態と病態についてのX線学的・解剖学的研究。
- Elser, F., Braun, S., Dewing, C.B., Giphart, J.E., & Millett, P.J. (2011). Anatomy, function, injuries, and treatment of the long head of the biceps brachii tendon. Arthroscopy, 27(4), 581-592.—上腕二頭筋長頭腱の解剖、機能、損傷、治療に関する包括的レビュー。