肩甲切痕 Incisura scapulae

J0160 (右の肩甲骨:前方からの図)

J0161 (右肩甲骨:後方からの図)
解剖学的構造
肩甲切痕は、肩甲骨上縁の外側部に位置する特徴的な解剖学的構造です。肩甲骨上角と烏口突起基部の間に形成される切れ込みで、以下の詳細な特徴を有します:
- 肩甲骨上縁が著しく薄くなり、カミソリの刃のような形状を呈します。この薄化は、骨の上縁が上肩甲横靱帯の付着部に向かって徐々に細くなることによって生じます。
- 切痕の深さと形状には顕著な個体差があり、浅い切れ込みから深いU字型またはV字型の切痕まで、さまざまな形態が観察されます (Rengachary et al., 1979)。
- 切痕の大きさは、幅が約5〜15mm、深さが約3〜10mmの範囲で変動します (Natsis et al., 2007)。
- 切痕の底部は、上肩甲切痕靱帯(上肩甲横靱帯)によって橋渡しされ、骨-靱帯性の孔(肩甲上孔)を形成します。
関連する靱帯と神経血管構造
肩甲切痕の臨床的重要性は、この部位を通過する神経血管構造に由来します (Standring, 2020):
- 上肩甲横靱帯(Superior transverse scapular ligament):肩甲切痕の上部を橋渡しし、骨-靱帯性の孔を形成します。この靱帯は肩甲切痕の内側縁と外側縁を連結し、肩甲上神経が通過する孔の上壁を構成します。
- 肩甲上神経(Suprascapular nerve):腕神経叢の上神経幹(C5-C6)から分岐し、上肩甲横靱帯の下方、すなわち肩甲切痕を通過します。この神経は棘上筋と棘下筋を支配し、肩関節の外転と外旋に重要な役割を果たします (Moore et al., 2017)。
- 肩甲上動脈(Suprascapular artery):甲状頸動脈から分岐し、通常は上肩甲横靱帯の上方を通過します(神経とは異なる経路)。この動脈は肩甲骨周囲の筋群に血液を供給します。
解剖学的変異
肩甲切痕の形態学的変異に関する複数の研究が報告されており、以下のような分類が提唱されています:
- Type I(完全な切痕):明瞭なU字型またはV字型の切痕が認められる最も一般的な型。
- Type II(不明瞭な切痕):切痕が浅く、不明瞭な型。報告により異なりますが、2.5%(200側中5側)から12.5%(464側中58側)の頻度で観察されます (Rengachary et al., 1979; Natsis et al., 2007)。
- Type III(切痕の欠如):肩甲骨上縁が平坦で、明確な切痕が認められない型。13.5%(200側中27側)から10.3%(464側中48側)の頻度で報告されています (Rengachary et al., 1979; Natsis et al., 2007)。
- Type IV(完全骨化型:肩甲上孔):上肩甲横靱帯が骨化し、切痕が完全に骨性の孔に変化した型。3.0%(200側中6側)から2.2%(464側中10側)の頻度で観察されます (Rengachary et al., 1979; Natsis et al., 2007)。
- Type V(複数の孔):稀に、二重の切痕や孔が形成される変異型も報告されています (Wang et al., 2011)。