胸腔

胸腔は、胸郭によって囲まれた円錐形の空間を指します。この空間は横隔膜で胸腔と腹腔が分かれています。胸腔内には左右の胸膜腔と縦隔があります。胸膜腔は壁側胸膜と臓側胸膜によって囲まれ、壁側胸膜は胸壁の内部を覆い、臓側胸膜は肺を覆っています。一方、縦隔内には心膜腔があり、心臓を包んでいます。

胸腔と胸膜腔は異なる概念で、注意が必要です。胸腔は胸郭内の空間で、下部は横隔膜に閉じられ、上部は頚部に開いています。一方、胸膜腔は壁側胸膜と肺胸膜によって囲まれた閉鎖空間で、その内部には少量の漿液が存在します。肺は胸腔内に位置していますが、胸膜腔の外側にあります。さらに、胸腔内には心膜腔という閉鎖された袋が存在し、その中には心臓や大血管などの胸部内臓が詰まっています。

日本人のからだ(村上 弦 2000)によると

右胸心には、孤立性右胸心、鏡像型右胸心、無脾症候群・多脾症候群を伴う右胸心の3型が存在します(表46、高尾、1989)。孤立性右胸心では、心房、肺・気管支、腹部内臓の位置は正常で、左大動脈弓・右大静脈を有しますが、修正大血管転位症を伴い、右房-左室-肺動脈、左房-右室-大動脈が連続します。しかし、孤立性右胸心の40%では、修正大血管転位を伴わないとされています。鏡像型右胸心は全内臓逆位の部分形態で、20%で修正大血管転位を伴います。無脾症または多脾症を伴う右胸心では、70%で右室が左側に位置します。心房および肺・気管支の形態は様々であり、大動脈弓と大静脈との関係も一定しません。多脾症では、下大静脈が欠損し、発達した奇静脈を(左)大動脈の後方に認めることがしばしばあります。

表46 右胸心剖検82例中の分類

表46 右胸心剖検82例中の分類

孤立性右胸心¹⁾ 鏡像型右胸心²⁾ 無胖症・多脾症を伴う右胸心³⁾
(35%) (30%) (12%)(22%)
大動脈弓 正常(左) 右または左
上下大静脈 正常(右) 右または左
胃,肝臓 正常 正常 正中線上
心奇形 半数以上で大血管転位を合併 70%で右室が左側
100%近くで心房の奇形

¹⁾: 心臓だけが鏡像のため,結果的に(内景上の)左室に肺動脈がつく.つまり,かならず大血管逆位を伴 う.

²⁾ : 全内臓逆位に伴い,大血管と心室の接続は基本的には正常になりうる.

³⁾:¹⁾²⁾以外で無脾ないし多脾を伴う.

(高尾, 1989)

左心症

左心症は、内臓が逆位しているにもかかわらず、心臓が正常位置にある状態を指します。日本でも多くの報告があります(1968年までに72例)。内臓逆位でありながら左心症であることから、大血管転位を伴う特徴があり、大動脈は形態的な右室(左側に位置しても、内腔が右室の特徴を示す)から発生します。さらに、心室中隔欠損や他の複雑な心奇形を伴うため、多くは新生児期に発見されます(中島ら、1970;高尾1989)。しかし、心奇形が軽度であるため、成人期に発見されることもあります(喜安ら、1993)。内臓逆位を伴う修正大血管転位症の80歳女性の剖検報告では、腹部内臓と心房は逆位ですが、左側大動脈弓を持っています(堀江ら、1995)。左心症の50-80%は無脾・多脾症候群であり、半数は心房の異常、約60%は両上大静脈遺残、約30%は下大静脈欠如を伴います。

結合体

胸腹結合体は日本では40,000分娩に1例、あるいは出生10万人に1.54人といわれています(安田、1974)。大部分は2児が共通の心嚢を持ち、多くの場合、心臓がさまざまな程度に結合しています(図161)(西畠ら、1985; 高尾、1989)。症例報告は1986年前後に集中しているようで、近年は少ないです(藤原・山本、1985; 篠塚ら、1986; 杉浦ら、1986; 林ら、1987; 元島・近藤、1987)。解剖所見も少ないですが、胸結合体の1例を示します(図162)(江口、1951)。