鎖骨下静脈溝 Sulcus venae subclaviae

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J0749 (右肺:内側からの図)

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J0750 (左肺:内側からの図)

解剖学的特徴

鎖骨下静脈溝は、鎖骨の下面に存在する浅い溝状の解剖学的構造です。この溝は鎖骨の内側1/3部分に位置し、特に前斜角筋結節(tuberculum musculi scaleni anterioris)の前方に認められます。鎖骨下静脈はこの溝を通過して胸部から上肢へと血液を還流させる重要な経路となっています。

鎖骨下静脈は、内頸静脈と合流して腕頭静脈を形成し、最終的に上大静脈へと注ぎます。この静脈系は上肢および頭頸部からの静脈還流において中心的な役割を果たしています。

位置関係と周囲構造

解剖学的位置関係としては、前斜角筋結節を境界として、後方には鎖骨下動脈溝(sulcus arteriae subclaviae)があり、前方に鎖骨下静脈溝が位置しています。この配置は「前静脈・後動脈」の原則に従っており、血管損傷のリスクを軽減する自然の防御機構となっています。

鎖骨下静脈は第一肋骨の上縁を越える際、前斜角筋と中斜角筋の間を通過する鎖骨下動脈および腕神経叢の前方を走行します。この領域は胸郭上口(thoracic inlet)の一部を構成し、複雑な神経血管束が密集している重要な解剖学的部位です。

臨床的意義

  1. 中心静脈カテーテル挿入時の重要な指標となり、鎖骨下静脈穿刺の際の解剖学的ランドマークとして利用されます。鎖骨下アプローチは、中心静脈圧測定、輸液管理、血液透析アクセスなどに広く用いられています。
  2. 外傷時、特に鎖骨骨折が発生した場合、骨片による鎖骨下静脈の損傷リスクが高まります。鎖骨中央部骨折では、骨片が下方へ転位し、直下を走行する鎖骨下静脈を圧迫または損傷する可能性があります。
  3. 胸郭出口症候群(Thoracic Outlet Syndrome)では、この領域での神経血管束の圧迫が症状を引き起こす原因となることがあります。鎖骨と第一肋骨の間での圧迫(肋鎖間隙症候群)が、静脈性胸郭出口症候群の主要な病態となります。

その他の臨床的重要性として、鎖骨下静脈血栓症(Paget-Schroetter症候群)では、この領域での静脈の圧迫や反復性の外傷が発症機序となることがあります。また、ペースメーカーやICD(植込み型除細動器)のリード挿入経路としても利用されます。

参考文献