真肋 Costae verae [I-VII]

J0159 (7ヶ月胎児の胸骨と真肋)
定義と基本構造
真肋(しんろく、Costae verae)とは、第1肋骨から第7肋骨までの7対の肋骨を指します(Gray, 2020)。これらは各々の肋軟骨(costal cartilage)を介して胸骨(sternum)と直接連結している肋骨であり、胸郭の前面を完全に閉鎖する構造を形成しています(Moore et al., 2017)。真肋は胸郭の骨性フレームワークの重要な構成要素であり、心臓・肺などの重要臓器を保護すると同時に、呼吸運動において中心的な役割を果たします(Standring, 2020)。
解剖学的特徴
後方の関節構造
- 各真肋は後方で対応する胸椎と2つの関節を形成します(Neumann, 2016):
- 肋椎関節(costovertebral joint):肋骨頭(head of rib)が胸椎体と関節を形成。通常、肋骨頭は2つの隣接する椎体および椎間円板と接触します(第1、第10、第11、第12肋骨を除く)
- 肋横突関節(costotransverse joint):肋骨結節(tubercle of rib)が対応する胸椎の横突起と関節を形成(第11、第12肋骨には通常存在しない)
- これらの関節は肋骨の可動性を可能にし、呼吸運動の機械的基盤となります(De Troyer & Kirkwood, 2019)
前方の胸骨付着
- 各真肋は前方で肋軟骨を介して胸骨の異なる部位に付着します(Moore et al., 2017):
- 第1肋骨:第1肋軟骨が胸骨柄(manubrium sterni)の上縁外側部に直接結合。この関節は軟骨結合(synchondrosis)であり、可動性が極めて限られています
- 第2肋骨:第2肋軟骨が胸骨柄と胸骨体(body of sternum)の境界部、すなわち胸骨角(sternal angle、Louis角、Angle of Louis)に付着。この部位は臨床的に重要なランドマークとなります(Standring, 2020)
- 第3-7肋骨:第3-7肋軟骨が胸骨体の側縁に順次付着。これらは胸肋関節(sternocostal joints)を形成し、可動性のある滑膜関節です
肋軟骨の構造
- 肋軟骨は硝子軟骨(hyaline cartilage)で構成され、骨性肋骨の前端から胸骨まで延びています(Gray, 2020)
- 肋軟骨は胸郭に可動性と弾力性を提供し、外力に対する緩衝作用を果たします(Standring, 2020)
- 加齢とともに肋軟骨は石灰化・骨化する傾向があり、これにより胸郭の柔軟性が低下します(Semine & Damon, 1975)
- 肋軟骨の長さは個々の肋骨によって異なり、一般に下位の真肋ほど肋軟骨が長くなります(Moore et al., 2017)
個々の真肋の特徴
- 第1肋骨:
- 最短かつ最も幅広く、最も湾曲が強い肋骨(Gray, 2020)
- 上面は平坦で、前斜角筋結節(scalene tubercle)があり、その前後に鎖骨下静脈溝と鎖骨下動脈溝が存在(Standring, 2020)
- 可動性が最も少なく、呼吸運動への寄与は限定的(De Troyer & Kirkwood, 2019)
- 第1肋骨の骨折は高エネルギー外傷を示唆し、重大な胸部損傷の可能性を考慮する必要があります(Battle et al., 2013)
- 第2肋骨:
- 第1肋骨より長く、形態も典型的な肋骨に近づきます(Moore et al., 2017)
- 外面に前鋸筋粗面(tuberosity for serratus anterior)が存在
- 胸骨角の位置決めに重要なランドマーク(Standring, 2020)
- 第3-7肋骨:
- 下位になるほど長さが増加し、第7肋骨が真肋の中で最も長い(Gray, 2020)
- 典型的な肋骨の形態を示し、頭・頸・体の区別が明瞭
- 肋骨体の内面に肋骨溝(costal groove)があり、肋間神経・動脈・静脈が走行(Moore et al., 2017)