尾骨角 Cornu coccygeum
尾骨角は、骨盤の最下部を構成する尾骨の上端に位置する一対の角状突起で、仙骨と尾骨を連結する重要な解剖学的構造です。以下、解剖学的特徴と臨床的意義について詳述します(Standring, 2020; Moore et al., 2018)。

J0134 (仙骨と尾骨:右側からの図)

J0135 (尾骨:前方からの図)
J0136 (尾骨:後方からの図)

J0326 (右側の骨盤の靱帯:後方からの図)
解剖学的特徴
発生学的由来
尾骨角は、発生学的には第一尾骨椎の上関節突起(processus articularis superior)の痕跡構造です(Moore et al., 2018)。胎生期において、尾骨は3〜5個の独立した椎骨として形成されますが、成長に伴いこれらが癒合し、成人では通常1〜4個の骨片として存在します。尾骨角は、この第一尾骨椎体の基部から上外側方に向かって突出する構造として残存します(Drake et al., 2019)。
形態学的特徴
- 尾骨角は左右一対の円錐形または円柱形の突起で、第一尾骨椎体の上縁外側部から起始します(Standring, 2020)。
- 長さは通常2〜5mm程度ですが、個体差が大きく、1mm未満から10mm程度まで変異があります(Agur and Dalley, 2021)。
- 尾骨角の先端は上方に向かい、仙骨の下角(cornu sacrale)と対向する位置関係にあります(Netter, 2018)。
- 両者の間には仙尾靱帯の外側部(lateral sacrococcygeal ligament)が張られ、仙骨と尾骨の連結を強化します(Drake et al., 2019)。
周囲の解剖学的構造との関係
骨性構造との関係
- 仙骨下角(sacral cornu):仙骨の最下部に位置する一対の突起で、仙骨管の開口部である仙骨裂孔(hiatus sacralis)の両側縁を形成します。尾骨角とは約5〜10mmの間隙を置いて対向し、この間隙は線維性結合組織と仙尾靱帯で満たされています(Sinnatamby, 2023)。
- 仙尾関節(articulatio sacrococcygea):仙骨の第5仙椎椎体下面と第一尾骨椎体上面の間に形成される関節で、通常は線維軟骨性の半関節(symphysis)として分類されます。わずかな可動性を有し、特に女性では出産時に後方への屈曲が可能です(Drake et al., 2019)。
靱帯構造との関係
- 外側仙尾靱帯(ligamentum sacrococcygeum laterale):仙骨下角と尾骨角の間を連結する靱帯で、仙尾関節の外側方を補強します(Netter, 2018)。
- 前仙尾靱帯(ligamentum sacrococcygeum anterius):前縦靱帯の延長として、仙骨と尾骨の前面を覆います。
- 後仙尾靱帯(ligamentum sacrococcygeum posterius):深層部(profundum)と浅層部(superficiale)に区分され、仙骨裂孔を覆う構造として仙骨と尾骨の後面を連結します(Standring, 2020)。
筋付着との関係