椎弓 Arcus vertebrae
椎弓は椎骨の後方部分を構成する弓状の骨性構造であり、脊柱管の後壁を形成することで脊髄を保護する重要な役割を果たしています(Gray and Carter, 2020)。椎体とともに椎孔(Foramen vertebrale)を形成し、これらが連続することで脊柱管(Canalis vertebralis)となります(Standring, 2021)。

J0116 (椎骨:頭蓋骨側からの図)

J0118 (第4頚椎:頭側からの図)

J0157 (6ヶ月胎児の軸椎:前方からの図)

J0291 (腰椎弓と黄色靭帯:前方からの図)

J0302 (後頭骨と最初から三番目までの頚椎を含む正中矢状断とそのリング状の組織:左方からの若干図式化された図)

J0928 (右上部頚神経の後枝:後方からの図)
解剖学的構造
基本構成要素
椎弓は主に以下の2つの部分から構成されます:
- 椎弓根(Pediculus arcus vertebrae):椎体の後外側から後方に向かって伸びる短く太い柱状の部分です。椎弓根は椎体と椎弓板を連結し、隣接する椎骨の椎弓根との間に椎間孔(Foramen intervertebrale)を形成します(Moore et al., 2022)。この椎間孔を通じて脊髄神経が脊柱管から外へ出ていきます。椎弓根の骨皮質は厚く、骨密度が高いため、脊椎固定術における椎弓根スクリュー挿入の重要なアンカーポイントとなります(Bridwell and DeWald, 2020)。
- 椎弓板(Lamina arcus vertebrae):椎弓根から後内側に向かって伸びる扁平な板状構造です。左右の椎弓板は正中線で合流し、棘突起(Processus spinosus)の基部を形成します(Netter, 2023)。椎弓板の前面(脊柱管側)には黄色靭帯(Ligamentum flavum)が付着し、これが隣接する椎骨間の椎弓板を連結することで脊柱管の後壁の一部を構成します(Bogduk, 2018)。
椎弓から派生する突起
椎弓からは以下の重要な突起が派生します:
- 棘突起(Processus spinosus):左右の椎弓板が正中で合流した部分から後方に突出する突起です。脊柱起立筋群、多裂筋、棘間筋、棘上靭帯などの付着部位となり、脊柱の伸展運動に重要な役割を果たします(Drake et al., 2020)。また、体表から触知可能なため、椎骨レベルの同定や脊椎手術の際の重要な解剖学的指標となります(Hansen, 2022)。
- 横突起(Processus transversus):椎弓根と椎弓板の移行部から外側方に伸びる突起です。頚椎では横突孔(Foramen transversarium)を有し、椎骨動脈が通過します。胸椎では肋骨と関節を形成する肋骨窩(Fovea costalis)を持ちます。腰椎では肋骨突起(Processus costalis)とも呼ばれる長い横突起を有します。横突起には回旋筋、多裂筋、横突間筋、大腰筋などが付着し、脊柱の回旋と側屈運動に関与します(Benzel, 2019)。
- 関節突起(Processus articularis):椎弓根と椎弓板の移行部から上下に突出する突起で、上関節突起(Processus articularis superior)と下関節突起(Processus articularis inferior)があります。これらは隣接する椎骨の対応する関節突起と椎間関節(Articulatio zygapophysialis)を形成します(Standring, 2021)。椎間関節の関節面の方向は脊椎の部位によって異なり、頚椎では斜め上方、胸椎では冠状面に近く、腰椎では矢状面に近い配置となっています。この関節面の配置が各部位の脊柱の可動域を規定しています(Herkowitz et al., 2021)。
発生学と成長
椎弓は胎生期において、椎体とは独立した軟骨性の中心から形成されます(Moore et al., 2022)。各椎骨には通常3つの骨化中心があり、椎体に1つ、左右の椎弓にそれぞれ1つずつ存在します。椎弓の骨化中心は胎生7〜8週頃に出現し、椎弓板が後方正中で融合するのは生後1〜5歳頃です(Weinstein et al., 2020)。椎弓と椎体の融合は通常3〜6歳頃に完了します。この発生過程の異常により、椎弓の形成不全や脊椎披裂(Spina bifida)などの先天異常が生じることがあります(Williams et al., 2019)。
解剖学的変異
椎弓には様々な解剖学的変異が存在します:
- 椎弓欠損(脊椎披裂、Spina bifida):椎弓板の正中での融合不全により生じる先天異常です。潜在性二分脊椎(Spina bifida occulta)は最も軽度の型で、通常は無症状ですが、L5やS1レベルで5〜10%の頻度で認められます(Weinstein et al., 2020)。より重度の型では神経組織の脱出を伴うことがあります。
- 椎弓根の形態変異:椎弓根の長さ、幅、角度には個体差があり、特に腰椎下部では変異が大きくなります。これらの変異は椎弓根スクリュー挿入の際に重要な考慮事項となります(Bridwell and DeWald, 2020)。
- 副突起(Processus accessorius):腰椎の横突起基部に存在する小さな突起で、多裂筋の付着部位となります(Bogduk, 2018)。