筋突起(下顎骨の)Processus coronoideus (Mandibulae)
下顎骨の筋突起は、顎関節の運動と咀嚼機能に重要な役割を果たす解剖学的構造です(Standring et al., 2016)。以下にその詳細を示します:

J0061 (下顎骨:下方からの図)

J0062 (下顎骨、右半分:外側からの図)

J0063 (下顎骨、右半分:内側からの図)

J0355 (頭蓋骨:後頭前頭方向からのX線像)

J0422 (口腔底の筋:口腔側からの図)
1. 解剖学的特徴
筋突起は下顎骨の重要な構成要素であり、以下のような詳細な解剖学的特徴を有します:
1.1 形態学的特徴
- 基本形態:筋突起は薄い三角形の骨板で、前方および上方に向かって尖った形状を呈しています(Gray, 2020)。その高さは約15-20mm、基部の幅は約10-15mmで、先端に向かって徐々に細くなります。
- 個体差:形状には顕著な個人差があり、人種、性別、年齢によって変化します。男性では一般的に女性よりも大きく、より突出した形態を示す傾向があります(Berkovitz et al., 2018)。
- 表面性状:外側面は平滑で、側頭筋の腱が付着するための広い面積を提供します。内側面にはやや粗造な表面があり、側頭筋の深部線維が付着します。
1.2 位置関係と周囲構造との関連
- 解剖学的位置:筋突起は下顎枝(ramus mandibulae)の前縁上部に位置し、下顎切痕(incisura mandibulae)の前方に存在します。下顎頭(関節突起)の前内側に位置し、両者の間に下顎切痕が形成されます(Netter, 2019)。
- 頬骨弓との関係:筋突起は開口時に頬骨弓(arcus zygomaticus)の内側を通過します。過度の肥大や過形成が生じた場合、この空間が狭小化し、開口障害の原因となります(Almeida et al., 2019)。
- 咬筋との関係:外側面の下部には咬筋が付着し、筋突起と咬筋は密接な機能的関係を持ちます。咬筋の深部は下顎枝外側面に広く付着します(Moore et al., 2018)。
- 側頭筋との関係:筋突起は側頭筋の主要な停止部であり、側頭筋の収縮力を下顎骨に伝達する重要な構造です。側頭筋は筋突起の前縁、内側面、外側面、および先端に広く付着します(Drake et al., 2020)。
1.3 組織学的構造
- 骨組織:筋突起は主に緻密質(皮質骨、cortical bone)からなり、内部には少量の海綿質(cancellous bone)を含みます。その厚さは基部で約2-3mm、先端では約1-2mm程度で、先端に向かって薄くなります(Berkovitz et al., 2018)。
- 骨膜:筋突起の表面は骨膜(periosteum)で覆われており、この骨膜から側頭筋の腱線維が連続しています。骨膜は骨の成長と修復に重要な役割を果たします。
- 血管分布:筋突起への血液供給は主に下顎枝動脈(a. mandibularis)の枝と、側頭筋から伸びる筋枝によって行われます。静脈も同様の経路で還流します(Gray, 2020)。
- 神経支配:筋突起周囲の骨膜は三叉神経第3枝(下顎神経、V3)の分枝によって支配されており、骨折や炎症時には疼痛を引き起こします(Netter, 2019)。
1.4 筋肉付着部の詳細