鼻切痕 Incisura nasalis
鼻切痕は上顎骨の前面上部に位置する重要な解剖学的構造であり、顔面骨格の形成と鼻腔の構築において中心的な役割を果たしています(Gray, 2020)。この構造は複雑な解剖学的特徴を持ち、多様な臨床的意義を有しています。

J0053 (右上顎骨:外側からの図)

J0054 (上顎骨:内面からの図)

J1068 (自由に剖出された外側の鼻の軟骨:右前方からの図)
解剖学的特徴
形態と位置
- 上顎骨の前面上部に位置する半円形または三角形の切痕で、左右対称に存在する(Standring et al., 2015)
- 上顎骨前頭突起の内側縁と上顎体前面の内側部分に沿って延び、その深さは通常10-15mm、幅は約20-25mmである(Moore et al., 2018)
- 左右の上顎骨の鼻切痕が正中線で合わさることで梨状口(piriform aperture)の下部および外側部を構成し、鼻腔の骨性外側開口部を形成する(Drake et al., 2019)
- 鼻骨の下縁、鼻軟骨(特に外側鼻軟骨および大翼軟骨)と接合して鼻腔の外側構造を支持する(Netter, 2018)
隣接構造との関係
- 上方は鼻骨と接し、後方は上顎骨の前頭突起へ連続する
- 内側面は鼻腔の外側壁を形成し、下鼻甲介の前端部と近接する
- 外側面には鼻筋(nasalis muscle)、上唇挙筋(levator labii superioris)、小頬骨筋(zygomaticus minor)などの表情筋が付着し、顔面表情の形成に関与する(Moore et al., 2018)
- 鼻切痕の深部には眼窩下神経と眼窩下動脈が走行し、顔面中央部の感覚と血液供給に重要な役割を果たす(Standring et al., 2015)
組織学的構造
- 鼻切痕の縁は緻密骨(compact bone)で構成され、厚さは約1-2mmで機械的強度を提供する(Netter, 2018)
- 内部は海綿骨(spongy bone)構造を持ち、軽量性と衝撃吸収能を両立させている
- 骨膜(periosteum)が全体を覆い、骨の栄養供給、修復、および周囲組織との連結を担う
- 鼻切痕内縁には呼吸上皮(respiratory epithelium)が延長し、鼻腔粘膜と連続している
- 血液供給は主に上顎動脈の枝である眼窩下動脈と顔面動脈の枝から受ける(Drake et al., 2019)