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目次(IV. 内臓学)

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腹膜は腹腔と骨盤腔を被う漿膜であり、人体内で最も広範囲に広がる袋状構造を形成している。これを腹膜腔Cavum peritonaei, Peritonaealhöhleと呼ぶ。

腹膜は他の漿膜嚢と同様に、その表面から少量の薄い水様液を分泌している。これを腹膜液Liquor peritonaeiという。この液体と腹膜上皮の滑らかさにより、腹腔と骨盤内の多くの器官が、生体内で顕著な形状や位置の変化を可能にしている。

腹膜と被覆する器官との固着の程度は様々である。一部の箇所では下層と強固に結合して動かないが、他の多くの箇所では疎な腹膜下組織によって高い可動性を保っている。

内臓が腹膜腔に深く入り込むため、腹膜にはさまざまなひだが生じる。腸管の各部を腹壁に固定し、腸管への脈管分布を包む大きな腹膜のひだを腸間膜Mesenteria, Gekröseという。また、ある内臓から他の内臓へ移行する大きな腹膜のひだで、後述する大小の腹膜嚢に属する膜によって形成されるものをOmenta(Epiploa),Netzeと呼ぶ。

男性の腹膜嚢はすべての側面で閉じているが、女性では左右各側に卵管の腹腔口abdominale Tubenmündungという開口があり、ここを通じて卵管、子宮、腟を介して外界と開放的につながっている。

他の漿膜と同様に、腹膜も体壁に属するより厚く固い部分である壁側腹膜Peritonaeum parietaleと、内臓を被う臓側腹膜Peritonaeum visceraleに分けられる。

壁側腹膜は前腹壁と側腹壁の内側面を途切れることなく被い、さらに横隔膜の腹腔面と後腹壁にも連続している。また小骨盤内にも入り込み、その壁の相当部分を被っている。

前腹壁における腹膜の配置は最も単純である。腹膜は臍部から前腹壁の後面を上行し、横隔膜の腹腔面に達してこれを被う。その際、筋肉部とは疎に、腱性部とは密に結合している。胎生期には腹膜が臍を通って外に伸び出し、体腔も外に出て胎児被膜間に入り込んでいた。横隔膜の腹腔面を被う腹膜は、肝臓が横隔膜と接する面の前縁まで達し、ここで肝臓の横隔面へと移行する。

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[図348]定型的なヘルニア門

(Fr. Merkel著)この図と図349の正常図を比較してください。

その経過中に腹膜は前腹壁において臍静脈によるひだ、すなわち肝鎌状間膜Mesohepaticum ventraleを形成する。このひだの自由縁は下方に向かい、初めは矢状方向にあるが、肝臓への付着部はわずかに右方にずれている。このひだは臍からほぼ正中線を上行して横隔膜の腹腔面と肝臓の横隔面に伸び、閉鎖した臍静脈、すなわち臍静脈索Chorda v. umbilicalisを含み、この索を臍から肝臓の内臓面へ導いている(図100(腹部内臓の位置関係I))。

臍の下方には3つのひだがあり、1つは正中に、他の2つは外側にある。これらはすべて臍に終わる(図348(定型的なヘルニア門)図349(前腹壁の下部にあるヒダと窪み))。中臍ヒダPlica umbilicalis mediaは臍尿管索Chorda urachiを含む。外側臍ヒダPlicae umbilicales lateralesは膀胱の側面から内側上方に進み、左右それぞれ閉鎖した臍動脈、すなわち臍動脈索Chorda a. umbilicalisを含む。これらのひだは翼のように突出し、その程度は様々である。外側臍ヒダのさらに外側には腹壁動脈ヒダPlica epigastrica(図349(前腹壁の下部にあるヒダと窪み))があり、これは下腹壁動静脈を包む。これらのひだの間にある外側・内側・膀胱上鼡径窩Foveae inguinales lateralis, medialis, supravesicalisについてはRK375(新生児の頭蓋:上面図)RK376(新生児の頭蓋底外面)から378頁まで、およびRK497(右の内側鼡径窩とその周囲、内部(後方)から解剖したもの)RK498(前腹壁と鼡径管の水平断の模型図)RK499(前腹壁下部の内側からの解剖図)を参照されたい。

腹膜嚢を前方から広く開いて腹膜腔を囲む他の壁を観察すると、前壁とは全く異なる様相を呈する(図100(腹部内臓の位置関係I))。

このとき、腹腔の上部に肝臓と胃がすぐに認められる。胃の大弯から大網Omentum majus, großes Netzという顕著な構造が下方に伸びている。これは前掛けのように腸の諸部分を前方から被っている。その左右および下方には、盲腸・S状結腸・空腸の終末部の係蹄が露出して見える。

大網を上方に持ち上げて折り返すと(図109(腹部内臓の位置関係II))、横行結腸がそれに付随して上昇し、自由ヒモと腹膜垂と結腸膨起を持つ横行結腸の後下面が明瞭に見える。また横行結腸間膜Mesocolon transversumの一部も観察できる。

さらに、腸間膜小腸の多数の係蹄が現れる。これらはほぼ全視野を占め、後腹壁に付着している諸器官をほぼ完全に被覆している。右方には盲腸、左にはS状結腸だけが部分的に見えるにすぎない。