橈側皮静脈は、その位置関係や開口部位などを考慮した分類が試みられており、その基準は一定ではないため、従来の報告例をまとめることは難しいです。他の静脈との関係を除外して整理すると、橈側皮静脈は橈骨茎状突起より近位で前腕屈側に出て肘窩に達し、肘正中皮静脈を出した後に三角筋胸筋三角を経て腋窩静脈または鎖骨下静脈に開口します(表70)。その際、肘部付近で島を形成したり、手背の静脈から起こる副橈側皮静脈を有することがあります。性差や側差は見られません。

橈側皮静脈がどこに開口するか、開口部位についての観察例は少ないです。これは、多くの観察が生体の表面観察によるため、その正確さに欠けると考えられます。稗田(1927)が成人100肢を解剖調査した結果では、腋窩静脈に入る例が圧倒的に多かったです。しかし、他の皮静脈と同様に、橈側皮静脈も走行、開口部位、他の静脈との相互関係を考慮すれば、各人各肢が変異例であると言っても過言ではありません。参考のために、以下に変異の一部を例示します。

  1. 主幹は前腕で他の静脈に開口し、上腕部を欠如する。
  2. 肘部で活発に分岐して複数の島を形成する。
  3. 上腕部の発育が貧弱で、蛇行、網状を呈する。
  4. 部分的または全体が重複している。
  5. 他の静脈との間に異常な交通枝を有する。
  6. 鎖骨の上を越えてから鎖骨下静脈に開口する。
  7. 腋窩静脈に開口する。
  8. これらの中の複数の異常を兼ね備えている。

一方、分岐した橈側皮静脈の全部または一部が外頚静脈に開口する例が成人では120側中4側(3.3%)に見られたのに対し、胎児では250側中48側(19.2%)に見られました(山田,1935)。橈側皮静脈はかなり変異性に富む静脈であり、まれな異常例も報告されています(岡本,1922)。この例では、右側では手背の橈側から起こった静脈(橈側皮静脈に相当)が上腕中央部で大胸筋の下縁に沿って走った後に腋窩静脈に開口しています。一方、手背の尺側から起こった静脈(副橈側皮静脈に相当)が上腕で通常の橈側皮静脈の経過をたどります。左側は通常の経過をたどるものの、上腕の近位1/3で大胸筋の下縁から腋窩静脈に入る変異枝を出します。

表70 橈側皮静脈の分類とその出現数(体肢数)

表70 橈側皮静脈の分類とその出現数(体肢数)

I II III IV V
岡本 (1922) 38 54 86 0 22 200
忽那 (1925) 48 46 100 7 56 257
稗田 (1927) 26 13 61 0 0 100
松本 (1933) 230 52 440 0 93 815
小川ら (1956) 20 49 90 33 20 212
村田 (1957) 196 52 239 13 0 500
近藤 (1974) 53 26 80 12 5 176

橈側皮静脈と他の静脈との関係は除外しました。

I型:橈骨茎状突起から近位で前腕を曲げ側に出て、肘窩に達します。肘正中皮静脈を形成した後、三角筋を通過して腋窩静脈または鎖骨下静脈に開口します。

II型:肘部付近で分岐し、吻合して島を形成します。

III型:I型に加えて、手の背側から起こる副橈骨側皮静脈を有します。

IV型:肘部付近で島を形成し、副橈骨側皮静脈を有します(II型+III型)。

V型:その他の例。