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脊髄は中枢神経系の脊椎部(図370(脊髄の被膜)、図371(脊髄と脊髄神経および交感神経幹)、372(終糸)、373(延髄と脊髄の前面)、374(延髄と脊髄の後面)、図375(脊髄の下部と馬尾およびこれらを包む硬膜)、図376(脊髄頚部の一部と出る神経根:脊髄前面)、377(脊髄頚部の一部と出る神経根:脊髄側面)、図378(脊髄とその被膜および後根の後面図;A, B, Cの3部に分割)、図379(脊髄膜:第4頚椎を通る横断面)、図380(脊髄膜:第2腰椎を通る横断面) )である。ほぼ円柱状で、前後方向にやや扁平な形をしており、特に前面は平坦である。内部には1本の管が貫通し、左右対称の形をなす。前面からは多数の神経束、すなわち運動性の根(motorische Wurzeln)を送り出し、後面では多数の神経束、すなわち知覚性の根(sensible Wurzeln)を受け入れている。脊髄は膜性の被膜に包まれ、脊柱管の中に位置する。上方は脳に属する延髄(Medulla oblongata, verlängertes Mark)に直接続いている。
骨格との位置関係(skeletotopisch)では、環椎の上縁から第2腰椎、あるいは第2尾椎にまで達している。脊髄の上端は頚神経の第1対が出る所に一致し、環椎の上縁の高さにある。
脊髄の幅と厚さは場所によって異なる。特に目立つのは、脊髄に長く延びた紡錘形の、左右対称的な著明なふくらみが2つあることである。上方の頚膨大(Intumescentia cervicalis, Halsanschwellung)と下方の腰膨大(Intumescentia lumbalis, Lendenanschwellung)があり、これらは体肢にゆく太い神経(Extremitätennerven)が起始する部位に当たっている。
脊髄は以下の部分に区分される: ・8対の頚神経が出る頚部(Pars cervicalis) ・12対の胸神経が出る胸部(Pars thoracica) ・5対の腰神経が出る腰部(Pars lumbalis) ・5対の仙骨神経および第1尾骨神経が出る仙骨部(Pars sacralis) 仙骨部は脊髄円錐(Conus medullaris)を形成し、その尖端は終糸(Filum terminale, Endfaden des Rückenmarkes)に続いている(図375(脊髄の下部と馬尾およびこれらを包む硬膜))。
上述の各部は、出る神経対の数に応じて上下に重なった部分からなるとされている。つまり脊髄は上下に並んだ多数の部分、すなわち分節(Segmente)から構成され、その数は少なくとも31個ある。
終糸(Filum terminale)は硬膜の嚢内では16 cm、その外では8 cmの長さがある。硬膜の嚢外にある部分はこの膜の続きによって密接に包まれており、この硬膜の部分は脊髄硬膜糸(Filum durae matris spinalis)を形成する。その先端はへら状に広がり、第2尾椎体の後面の骨膜に終わっている(図375(脊髄の下部と馬尾およびこれらを包む硬膜))。
成人の脊髄の長さは、上端から脊髄円錐の尖端まで計測すると、平均して男では45cm、女では41~42cm、新生児では14cmである。(日本人25体(男17、女8)の研究によれば、脊髄の長さは平均で男44.3cm、女42.8cm、重さは平均で男25.5g、女23.9gであった。(久保武:日本人の脊髄。東京医学会雑誌、17巻、53~70,111~127,143~160,1903))横径:胸部の中央では横径が10mm、矢状径は8mm;頚膨大の最も幅の広いところでは、横径が13~14mmに達し、腰膨大では12mmに達するが、矢状径はせいぜい1mmほど増すだけである。頚膨大より上方で、延髄との間では、横径は11~12mmである。
脊髄の重さは成人では27~28g(新生児では3.2g)である;これと脳の重さとの比は1:48であり、脊髄の比重は1.034、その容積は33cm³である。
局所解剖:骨格との関係では、頚膨大が第2頚椎の高さに始まり、第2胸椎の高さで終わる;その最も幅が広いところは第5~第6頚椎の高さにある。腰膨大は第10胸椎付近で始まり、第12胸椎の高さでその最大に達する。脊髄円錐の比較的鈍な尖端(Spitze)は、男では第1腰椎の下縁付近にあり、女ではさらに下方の第2腰椎の中央にまで達し、新生児ではさらに下方の第2あるいは第3腰椎の下縁に達する。(日本人50体(男35、女15)の研究によれば、脊髄円錐の下端の高さは第2腰椎にあるもの52%、第1腰椎にあるもの22%、両者の間にあるもの18%であった。(狩谷慶喜:本邦成人の脊髄下界位に就て。北越医学会雑誌、52巻、325~342,1937))
脊髄の実質の硬さ(Festigkeit)は顕著ではないが、新鮮な脊髄は我々の想像以上に強度と弾性を持っている。しかし死後はこの性質が速やかに消失し、柔軟になり、壊れやすくなる。
脊髄には自然の弯曲が2つある:頚部の弯曲と胸部の弯曲である。
脊髄は脊柱管を完全に満たしているわけではない(図379(脊髄膜:第4頚椎を通る横断面) )。3つの被膜である軟膜、クモ膜、硬膜のほかに、脊柱管を満たすものとして、著量のクモ膜下リンパ、豊富な静脈叢、さらに神経根の硬膜鞘に包まれた部分と包まれていない部分、および脂肪組織がある。
腰部より下方では神経根が互いに密に集まり、急な傾斜を描いて下方に走っている。脊髄の下部とその周囲の神経根の集まりが馬の尾の形を思わせることから、この部分全体に馬尾(Cauda equina)という名前が与えられている(
図370(脊髄の被膜)、図371(脊髄と脊髄神経および交感神経幹)、372(終糸)、373(延髄と脊髄の前面)、374(延髄と脊髄の後面) 、図375(脊髄の下部と馬尾およびこれらを包む硬膜) 、図378(脊髄とその被膜および後根の後面図;A, B, Cの3部に分割) )。
[図370]脊髄の被膜
脊柱管は第11胸椎から仙骨の上端まで椎弓を取り除いて開放されている。脊髄硬膜およびクモ膜は正中線で切開し、側方に折り返されている。馬尾は右側と左側に分けられている。(GerstenbergとHein、1908年より)
[図371]脊髄と脊髄神経および交感神経幹(Quainより)
V:三叉神経、XII:舌下神経、C1:第1頚神経、C2〜8:第2〜第8頚神経、Th1〜12:第1〜第12胸神経、L1〜5:第1〜第5腰神経、S1〜5:第1〜第5仙骨神経、Co:尾骨神経、x, x:脊髄の終糸。L1の根からxまでが馬尾。Rr:腕神経叢、Cr:大腿神経、Sc:坐骨神経、O:閉鎖神経。数字3、4、5のふくらみは脊髄神経節によるもの。図の左側に示されている交感神経幹では、aからssまでが幹神経節。a:上頚神経節、bとc:中および下頚神経節、d:第1胸神経節、d':第12胸神経節、l:第1腰神経節、ss:第1仙骨神経節。
[図372]終糸を×印の位置で切断し、個別に表示したもの(Quainより)
[図373および374]延髄と脊髄の前面(図373)および後面(図374)
(Quainより)。×印は終糸の切断位置を示す。
[図375]脊髄の下部と馬尾およびこれらを包む硬膜(1/3)後面(Quainより)
硬膜嚢を切開し、その切り口を両側に開いている。左側では神経根をすべて残しているが、右側ではL2以下の神経根を硬膜貫通部まで切除している。尾骨は本来の位置にあり、終糸と尾骨神経の尾骨との関係を示している。a:後正中溝、b, b:終糸(右側をやや引っ張っている)、b':硬膜嚢(c, c, c, c)外の終糸、d, d:神経根の硬膜貫通孔、e:歯状靱帯、DX, DXII:第10・12胸神経、LIとLV:第1・5腰神経、SIとSV:第1・5仙骨神経、CI:尾骨神経。
[図376, 377]脊髄頚部の一部と出る神経根(2倍拡大、Quainより)
図376:脊髄前面。右側の5で前根の根糸を切断。3は前外側溝と、そこから出る前根の根糸。
図377:脊髄側面。6'は脊髄神経節。