歯の脈管と神経は、歯髄とゾウゲ質内、および歯根膜内に存在する。これらは近接するより太い血管や神経幹から由来する。
上顎歯への血管は、顎動脈の枝である後上歯槽動脈と、眼窩下動脈の枝である前上歯槽動脈である。これらの血管は上顎骨壁の細い管内を通り、互いに吻合して他の枝も出すが、主に歯根膜、歯肉、歯髄への血管を供給する。歯髄への血管は歯髄の神経とともに歯根尖孔を通って歯髄に入り、ここで豊富な血管網を形成する。歯根膜の血管は周囲の骨部血管と連絡している。下顎歯への血管はすべて下歯槽動脈に由来する。
リンパ管には外方と内方のものがある。上顎歯の外方リンパ管は多数(8~9本)の小幹となって顔面静脈に沿って進み、顎下リンパ節の中央部に入る。ただし、大臼歯からのリンパ管は同リンパ節の後方部に入る。内方リンパ管は上深頚リンパ節に至る。下顎歯の外方リンパ流は顎下リンパ節中央部に達し、切歯からのリンパ管は加えて顎下リンパ節前方部、まれにオトガイ下リンパ節にも至る。下顎全歯からの内方リンパ流は上深頚リンパ節に向かうが、切歯からは顎下リンパ節前方部にも達する。
上顎歯の神経は後・中・前の上歯槽枝で、いずれも眼窩下神経から分岐する。これらの神経は上顎骨壁内を進み、吻合して上歯神経叢(Plexus dentalis maxillaris)を形成する。この神経叢は前方で左右が吻合し、歯に至る上歯枝(Rr. dentales maxillares)、歯肉に分布する上歯肉枝(Rr. gingivales maxillares)、その他の枝を出す。下顎歯の神経は下歯神経叢(Plexus dentalis mandibularis)から生じる下歯枝(Rr. dentales mandibulares)である。下歯神経叢は下顎管内で下歯槽動脈の上方に位置し、下歯枝と下歯肉枝(Rr. gingivales mandibulares)を出す。
歯髄とゾウゲ質内の神経の詳細については26頁を参照。歯根膜は有髄・無髄神経線維からなる密な網を持つ。これらの神経線維は太い束となって脈管と共に歯の長軸に沿って走行し、また分散した線維がより不規則な方向をとる。無髄線維の多くは単純な終末を持ち、主にセメント芽細胞領域で終わるが、他の歯根膜部分でも終止する。