(図044(大臼歯の硬組織形成の各段階)図045(歯堤 3ヵ月胎児の頭部前額断)、046(図45の枠内部分を拡大表示したもの)図047(エナメル器)図048(乳歯および永久歯の原基)図049(エナメル質の形成)図050(新生児の上顎における歯槽窩と歯胚)図051(新生児の下顎における歯小嚢)図052(乳歯の萌出を示す模型図)図053(乳歯の発生模型図)、054(永久歯の発生模型図)図055(脱落した乳歯)、056(3歳児の下顎左半:内側からの図)図057(永久歯の萌出を示す模型図)図058(6歳児の両顎に残存する乳歯と永久歯:前方からの図)、059(6歳児の両顎に残存する乳歯と永久歯:側方からの図))

ヒトの胎児では、妊娠第3月初めに上下顎の縁に沿って粘膜が著しく円みを帯びた隆起—顎壁(Kieferwall)—を形成する。ここで上皮の深層が稜状に陥入し、歯堤(Zahnleiste, Schmelzleiste)(図045(歯堤 3ヵ月胎児の頭部前額断)、046(図45の枠内部分を拡大表示したもの))を形成する。外側からは、縦走する浅い溝—原始歯溝(Primitive Zahnfurche)—がこの陥入部位を示している。この歯溝は両側で高まった縁—歯壁(Zahnwall)—によって境界される。

次の段階では、この陥入した上皮稜の最深部で、一定間隔をおいて上皮の顕著な増殖が起こる。その結果、細い栓状のエナメル胚(Schmelzkeime)が顎の結合組織層内に伸長する。この栓状構造の自由端は膨らんでフラスコ形となり、細い頸部を介してより表層に近い上皮部分と連続している。

同時に、顆粒に富む結合組織細胞が多数この歯胚の底部を取り囲んで集まり、歯胚を取り巻く暗い領域を形成する。やがてこの組織から、歯の原基全体を包む結合組織性の歯小嚢(Zahnsäckchen)および同じく結合組織である歯乳頭(Zahnpapille)が形成される。具体的には、歯胚の底部が拡大し、その周辺部がさらに突出する一方、中央部はドーム状に陥凹し、徐々にその高さを増す。結合組織はこれに伴って形を変え、歯乳頭となる。こうしてフラスコ形だったエナメル器は鐘状へと変化する。

結合組織性の歯乳頭を帽子のように囲む歯胚の部分は、この時期以降エナメル器(Schmelzorgan)と呼ばれる(図047(エナメル器))。まだ上皮性の柄がこれを歯堤に付着させている。エナメル器と歯乳頭の長さが増すにつれ、歯乳頭はますます歯小嚢から分離する。一方、歯小嚢は徐々に伸長してエナメル器全体を被覆し、最終的に完全に閉鎖する。この時点でエナメル器の柄は消失する。

エナメル器自体がすでに早期から3つの層(図047(エナメル器))を示す。すなわち、内外それぞれ1層と、その間にあって徐々に拡大し、さらに2部に分かれていく層である。各層の名称は内エナメル上皮(inneres Epithel)、外エナメル上皮(äußeres Epithel)およびエナメル髄(Schmelzpulpa)という。内エナメル上皮はエナメル膜(Schmelzmembran)とも呼ばれ、その細胞はエナメル上皮細胞(Schmelzepithelien)あるいはエナメル芽細胞(Schmelzzellen)と呼ばれる。中間層(Stratum intermedium)はこのエナメル膜に最も近接して存在する細胞群で、これらの細胞はエナメル器の発生初期の状態を維持している。一方、エナメル髄は内外エナメル上皮の間に位置し、ここでは中間層以外の上皮性細胞が星状に変形し、膠様の細胞間物質に包埋されている。外エナメル上皮は扁平な細胞から成り、エナメル器をその外側の結合組織から隔てている。内エナメル上皮から後にエナメル質が形成される。

ここで象牙質の初期発生を観察すると、歯乳頭(Zahnpapille または Zahnpulpa)はエナメル器が絶えず長さを増して成長するにつれ、最初は歯冠に相当する形態から徐々に変化し、最終的には1つの歯全体に相当する形態をとるようになる。それよりかなり前の段階で、歯乳頭の最外層の細胞が上皮様に配列して象牙質胚(Dentinkeim)を形成する。これはすでに図47で明確に示されている。

局所解剖学的に見ると、象牙質は(エナメル質も同様だが)まず歯冠の尖端部で形成され、そこから下方に広がっていく。その結果、初めは象牙質のみから成り、後に象牙質とエナメル質から成る小さな帽子状の構造が形成される。これは鋭い縁を持ち、下方に開いている。この構造は切歯と犬歯では1個、小臼歯では2個、大臼歯では咬頭の数に応じて数個形成される。この小さな帽子状の構造はZahnscherbchen(歯小片の意)と呼ばれる。

時間的経過を見ると、すでに胎児の第4月末にはすべての乳歯がそれぞれの歯乳頭上に、それよりやや遅れて永久歯の第1大臼歯がその歯乳頭上に小さな帽子状の象牙質を形成しており、同時にエナメル質の初期形成も始まっている。象牙質の帽子はその縁に新たな物質が付加されることで歯根方向に長さを増す。厚さの増加は象牙芽細胞の働きにより内側から物質が付加されることで生じる。それと同時に、若い時期には大きかった歯乳頭の部分、すなわち歯髄が徐々に縮小する(図048(乳歯および永久歯の原基))。

つまり、最初に歯冠が形成され、続いて歯頸部、最後に歯根が形成される。歯冠の完成後まもなく、あるいはかなり遅れて、その歯冠が歯肉を貫いて萌出する。この時点でも象牙質の形成は歯根の完成に向けて継続している。そのため、若い歯は下方に向かって広く開いた歯根を持つ。その開口部からはまだ相当な大きさの歯髄を引き出すことができる。2つ以上の咬頭を持つ歯では、上述のように、歯冠が持つ咬頭と同数の象牙質の小さな帽子が最初に形成される。その後、これらが互いに融合する。そして後に2つ以上の根を持つ歯では、歯髄がその根の数と同じ数の部分に分かれる(図044(大臼歯の硬組織形成の各段階))。歯乳頭の組織は早期から血管を有しており、特に象牙質の形成時には多数の毛細血管が存在する。

エナメル質の形成は次のように進行する。これは初めから稜柱状の構造として出現する。その際、非常に長く伸長したエナメル芽細胞自体が象牙質に面した端から徐々に石灰化するのか、あるいはエナメル芽細胞が象牙質に面した端で特定の物質を分泌し、この物質が石灰化するのか、いずれかである。そして石灰化しない接合質がこの稜柱間を充填して結合させている(v. Ebner)。Speeの研究によると、エナメル芽細胞内部にある種の有機性代謝産物がまず形成され、これが無機塩類と比較的容易に結合して不溶性となる性質を持つという。こうして徐々に硬化が進行する。硬化は最初にエナメル細胞の象牙質に隣接する部分、特にその辺縁部(Randteile)で始まり、その際中軸部(Achsenteil)はしばらくの間軟らかいままである。後にこの中軸部にも石灰化が生じる。Heldによる本現象の研究結果も、ここで述べたものと極めて類似している(Z. mikr. anat. Forsch., 5. Bd., 1926)(図049(エナメル質の形成))。

エナメル質の発生が進むにつれてエナメル髄は徐々に消失する。その結果、外エナメル上皮は内エナメル上皮に再び接近し、最終的には後者がエナメル質の形成のために完全に消費され、歯が歯肉を貫いて萌出する時点で前者は乾燥し角化した被覆として歯冠表面に密着する。

つまり、外エナメル上皮は後の歯小皮(Cuticula dentis)の初期形態と考えるのが一般的であった。

しかしv. Brunnによると、真の歯小皮はエナメル芽細胞の核を含む残存部と、完成したエナメル質との間に全く無構造の薄層として観察されるという。この説に従えば、歯小皮はエナメル芽細胞がエナメル質の形成を完了した時点で最後に分泌される産物ということになる。

Heldによれば、歯小皮は"外胚葉性の基底膜(ectodermale Basalmembran)"であるという。

代生歯(Ersatzzähne)は図047(エナメル器)ですでに示したように、歯堤に生じる小さな歯胚から発生する。これは歯堤の唇側面に形成されるが、乳歯の原基よりも舌側(内方)に位置する(図048(乳歯および永久歯の原基))。大臼歯とその他の代生歯との主な相違点は、前者が歯堤に生じる第1列の歯として乳歯と同じ列に属するのに対し、永久歯の切歯、犬歯、小臼歯は第2列の歯として発生することである。

セメント質は歯小嚢の結合組織細胞から形成される。これらの細胞は骨芽細胞へと分化し、歯の発生過程ではセメント芽細胞(Cementoblasten)と呼ばれる。セメント芽細胞は、通常の骨形成過程と類似した方法で骨組織を産生する。

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[図44]大臼歯の硬組織形成の各段階 ×1(Blakeによる)

  1. 5つの咬頭の初期形成(Zahnscherbchen、歯小片)、2と3. 歯頚部まで形成された歯冠と2根性の初期段階、4. 2つの根への分離、5、6、7. 根のさらなる発達段階