(図040(歯槽骨壁におけるシャーピー線維)図041(歯根膜))

歯根膜とは、歯根をその周囲の部分に固く結びつけているすべての線維、およびその間にある細胞、脈管、神経を総称するものである。線維の大部分は歯槽壁と歯根の間に張られており、一部の線維束は歯頚からその周囲の結合組織に達している。

線維は束を形成してセメント質内に入り、前述のようにこれがセメント質の主要部分を構成している。同様に、線維束は歯槽壁の骨梁にも到達し、ここではシャーピー線維として骨内でかなりの長さにわたって追跡できる。歯槽壁からセメント質までの経路において、個々の線維束は互いに線維を交換している。

線維の走行方向は、歯頚部でのみほぼ横走(すなわち歯根表面に直角)である。歯頚部に付着する線維束は、舌面(内面)と唇面(外面)では歯肉の強靱な結合組織内に放散するが、接触面では槽間中隔(Septum interalveolare)の縁を越えて隣接歯の頚部に進んでいる。歯頚部より下方に付着する線維は、歯槽壁から斜め下方へセメント質に至る。歯根尖に近づくにつれて斜行の度合いが強くなり、歯根尖の直近ではほぼ横方向になる。歯根尖自体からは線維束があらゆる方向に放射状に進んでいる。重要な点は、すべての線維束がセメント質表面に対して直角に走行しているわけではないことである。(歯根と歯槽を一緒に横断した標本で分かるように)斜走する線維も存在する(図041(歯根膜) )。

したがって、歯は歯根膜の線維束によってその位置に保持されると同時に懸垂されている。斜め下方に向かう線維は、歯が歯槽底へ陥入するのを防いでいる。歯頚部の横走線維と歯根尖から発する線維は、歯が歯槽から脱落するのを防いでいる。歯の長軸周りの回転に対しては、主に歯根表面に沿って切線方向に走る線維が作用している。歯根膜の脈管と神経は互いに並行して走行し、歯の表面に平行して伸びた細長い網目状構造を形成している。特筆すべきは、血管や神経に伴う結合組織の配列が疎であることだ(図040(歯槽骨壁におけるシャーピー線維)図041(歯根膜))。

歯根膜の線維束は膠原原線維から構成され、わずかな弾性線維が血管に伴っている。線維束の間には少数の線維芽細胞(Fibroblasten)が存在する。セメント質表面に接して線維束の間に小さな骨芽細胞(Osteoblasten)があり、これはセメント芽細胞(Cementoblasten)と呼ばれる。通常の大きさの骨芽細胞が歯槽壁に接して見られる。また、所々にハウシップ窩(Howshipsche Lakunen)内に巨大細胞が観察される。RK165(ヒトの歯槽の骨壁におけるシャーピー線維)

歯根膜の構造的形態の発生過程については、von Lanzが記述している(Verh. anat. Ges., 1931)。

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[図40] 上下顎の歯槽骨壁におけるシャーピー線維 ×250倍。歯根膜の線維束がシャーピー線維として骨を貫通している。

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[図41] 歯根膜

下顎左側犬歯の根を、歯槽縁のすぐ下方の高さで横断したもの。

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[図42] 歯髄内の神経線維(Dependorfによる)

[図43] 象牙質内の神経原線維網(Dependorfによる)