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目次(III. 脈管系)

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[図612] 丈の高い内皮細胞

19歳男性の舌扁桃における毛細管直後の静脈に見られるもの。(K. W. Zimmermann, Z. Anat. u. Entw., 68. Bd. 1923.)

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[図613]毛細管係蹄の単一型(a, b)と複合型(c)

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[図614] カエルの硝子体の毛細血管(Eberth による)

[図615] 43歳男性の心臓における高度に分枝した外膜細胞を持つ毛細血管。倍率1350倍(K. W. Zimmermann, Z. Anat. Entw., 68. Bd. 1923)

[図616] 毛細血管の神経支配(Ph. Stöhr jr., Z. Zellforsch., 3. Bd., 1926 による)

歴史:長らく、古代の人々は心臓が静脈を通じて血液を、動脈を通じて空気(Pneuma)を諸器官に送っていると考えていた。彼らは血液が心臓の鼓動ごとに静脈を通って同じ道を戻ってくると信じていた。

アレキサンドリアのヘロフィロス(紀元前300年頃)が実際の事実に近い見解を示したことが大きな進歩となった。彼は動脈内に血液と空気の混合物があると主張した。

同時代のエラシストラトスは動脈と静脈が末端で結合していることを予見し、ガレノス(131〜201年)は動脈に血液が含まれることを確認し、動脈血と空気の混合説を強く主張した。ガレノスが静脈血の心臓への流れを最初に提唱したかは不明確だ。彼の右心の機能に関する特異な説では、有用な血液は心臓の隔壁を通って左心に達し、不要な血液は肺動脈を経て肺で発散するとされた。また、空気は肺から肺静脈を通って心臓に至り、そこで血液と混合するとした。この説は中世を通じて信じられていた。

16世紀になってようやく、ヴェサリウスらが心臓壁は通過不能であることを認識した。静脈弁の再発見(カンナーニ1546年、ファブリキウス1574年)により静脈血の求心性経路が確定された後、ミゲル・セルベト(1509〜1553年)らが右心から肺を経て左心に至る血液の流れを不完全ながら提唱し始めた。当時は動脈の拍動を自動的なものとみなし、動脈の最細分枝で老廃物を排出し空気を取り入れると考えられていた。

ウィリアム・ハーヴィ(1578〜1658年)が古典的著作『Exercitatio anatomica de motu cordis et sanguinis in animalibus』(1628年、フランクフルト)で真実を証明した。しかし、動静脈末端の毛細管系による連結が解剖学的に立証されたのは1660年以降のことで、血管注入法と顕微鏡の使用によって初めて達成された(デ・マルケッティス、ブランカールト、ロイシュ)。

生体での毛細管血液循環の観察は、まずマルピーギ(1661年)がカエルの肺と腸間膜で顕微鏡を用いて行い、温血動物ではカウパー(1697年)が初めて観察した。

前述の通り、毛細管(Haargefäße, Haarröhrchen, Kapillargefäße, Kapillaren)は、リンパ毛細管、毛細胆管、唾液毛細管などと区別するため毛細血管(Blutkapillaren)と呼ばれ、動脈と静脈を直接つなぐ極めて細い血管である。その内腔は非常に狭く、多くの場合1列の血球しか通過できない。毛細管はほぼ全身に分布しているが、上皮(大部分)、上皮性組織(毛、爪)、歯の硬組織、角膜(辺縁係蹄網を除く)、感覚器と神経系の一部、および軟骨(全てではない)には存在しない。

一般に血管と同様、毛細管の走行は常に器官の結合組織と密接に関連している。毛細管は体の結合組織の分枝であり、常に結合組織との連続性を保っている。ただし、毛細管が結合組織に包まれず、結合組織の最外層を形成していることもある。体の基本的構造(細胞や線維など)の内部には毛細管は侵入しない。神経細胞、神経線維、脂肪細胞、筋線維、骨層板、腺の小管や小胞内には毛細管は存在しないが、その周囲には多数の毛細管が密に取り巻いていることがある。

最も細い動脈から分岐したばかりの、あるいは最も細い静脈の始まりに集まってくる30〜60µm程度の太さを持つ比較的大きい毛細管は、まだ樹枝状の分岐をなし、血流の方向も動脈または静脈のそれと一致しており、壁の構造も中間的である。このような毛細管を動脈性毛細管(arterielle Kapillaren)および静脈性毛細管(venöse Kapillaren)という。それより細い本来の意味の毛細管は短い部分だけである。これは網状をなしてあらゆる方向に走り、壁の性状も一様で、その直径は平均7〜10µmである。特に太い毛細管としては肝臓、骨髄、歯髄のものがあり(12〜20µm)、最も細いものは網膜や筋に見られる(5〜6µm)(RK609(ヒトの大伏在静脈の横断面)RK117(ヒトの心筋の横断面) )。しかしこれらには非常に細いもののほかに中等大の口径のものも見られる。肉眼で毛細管を見ることはできない。毛細管の中に血液が満ちているときは、それが分布している器官に毛細管の量に応じて赤さの度合が異なるが均等に赤色を与える。毛細管がわずかしかない場合には、かろうじて分かる程度の色しかついていない。また器官の色はそれを覆っている被膜(血管を持たない)によって当然影響を受ける。

血液は毛細管の中では脈動せず一様に流れる。より太い毛細管中ではより細いものの中より早く流れるが、最も細い動脈や静脈の中よりもはるかにゆっくり流れている。毛細管の内腔は壁が弾力性を持っているので、内圧に応じて広くなったり狭くなったりする。毛細管の細胞の原形質は少量しかないが、これがおそらくわずかながら収縮しうるのであろう。またS. Mayer(Anat. Anz., 21. Bd. 1902)によると毛細管には枝分かれした平滑筋の被いが所々にあるという。それゆえ収縮性のあることは確実で、さらにStrickerによると毛細管はその内腔が消失してしまうほどまで自動的に収縮できるという。

毛細管の分布状態は体のあらゆる領域にわたって決して単一の型を示さない。その型はむしろ諸器官の微細構造に従って変化し、主としてその構造によって定められている。他の箇所、例えば骨では、血管の広がり方が器官の構造を決定する重要な要素となっている。したがって総体的に見ると、毛細管の分布する状態は器官の微細構造が非常に様々であるように変化に富んでおり、それぞれの器官について特有な分布状態であるといえる。それゆえ毛細管の分布だけを見て、1つの器官を判別することが可能である。個々の場合について言えば次のような基本型が分けられる。

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RK117(ヒトの心筋の横断面)

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RK479(筋の終動脈とその毛細血管への分岐)

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RK609(ヒトの大伏在静脈の横断面)

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RK613(毛細管係蹄の単一型(a, b)と複合型(c))

  1. 係蹄(Schlinge):単一のものと複合のものとがある。この型は広い範囲にわたって見られ、例えば皮膚の乳頭、滑液膜絨毛などにある(RK613(毛細管係蹄の単一型(a, b)と複合型(c)) )。
  2. 係蹄網(Schlingennetz):係蹄が網と結びついたもの。前者と同じく極めて広く見られる。例えば腸絨毛にある。
  3. 血管糸球(Glomerulum, Gefäßknäuel, Schlingenknäuel):様々な形の腎臓に見られる。
  4. (Netz)、網材(Netzgerüst):網とは空間内の2軸を含む平面上で毛細管の多くの枝分かれが互いに結び合っている型である。これが3軸の方向、すなわち立体的な広がりをなすと網材(Netzgerüst)の型となるが、この型が最も多い。この網と網材の隙間は丸みのある多角形、細長い多角形、不規則な多角形など様々であり、また隙間が広いこともあれば狭いこともある(RK479(筋の終動脈とその毛細血管への分岐))。
  5. 小窩(Lakune):体内の若干の器官では動脈と静脈の間に血流の道が湖のように広がった箇所があって、そこは特別な構造をしている。ここは著しく広がった毛細管とみなされる。このようなものは陰茎海綿体、尿道海綿体、脾臓の静脈性毛細管、胎盤などにある。この空所が大きい場合には細い動脈が直接その中に注ぎ込むこともあり得る。