腹腔動脈の2番目に太い枝であるが、胎児ではこれが最も太い枝である。右に向かってしばらく走った後、2本の主要な枝、すなわち固有肝動脈A. hepatica propriaと胃十二指腸動脈A. gastroduodenalisに分かれる。固有肝動脈は小網の肝十二指腸部内を右上方に向かい、網嚢孔の前を通って肝門に達する。この際、門脈の前方にあり、総胆管の左側に接している。第2の主枝である胃十二指腸動脈は幽門の後方で膵臓の前面を下方に進む。
α) 右胃動脈A. gastrica dextra:この動脈は左胃動脈より細く、胃の幽門部上縁に向かい、小彎に沿って左胃動脈の方向に進み、これと吻合する。胃の前後両面に多数の小枝を与える。この動脈は時として胃十二指腸動脈の枝となることがある。
β) 左枝R. sinister:固有肝動脈の枝で、肝門の左側から肝臓内に入る。時折、小さい肝葉にも枝を与えることがある。
γ) 右枝R. dexter:固有肝動脈の2本の終枝のうち太い方で、肝門の右側に向かって進むが、肝臓内に入る前に2〜3本の枝に分かれる。胆嚢管の近くを通過する際に胆嚢動脈A. vesicae felleaeを分岐する。この動脈は胆嚢の自由面と付着面に広がっている。
この動脈は幽門の後方を通り、胃の下縁に向かって走る。そこで2本の主要な枝に分かれる。
α) 上膵十二指腸動脈A. pancreaticoduodenalis cranialis:十二指腸の内側縁に沿って走り、十二指腸と膵臓頭部の間を通過する。小枝を出してこれら2つの器官に栄養を供給する。通常、上腸間膜動脈から分岐する下膵十二指腸動脈と吻合している。
β) 右胃大網動脈A. gastroepiploica dextra:左胃大網動脈よりも太い。大網の前葉を形成する2枚の漿膜の間を蛇行しながら、胃の大彎に沿って右から左へ走る。上方へは胃に、下方へは大網に枝を送り、最終的に脾動脈から分岐する左胃大網動脈と吻合する。
**変異:**総肝動脈は時に上腸間膜動脈または大動脈から直接分岐する。また、副肝動脈(accessorische Leberarterien)が近隣の動脈、特に左胃動脈か上腸間膜動脈から分岐することがある(Adachiによると、ヨーロッパ人で19.2%、日本人で29.8%に見られる)。総肝動脈の一部の枝が時折近くの他の動脈から分岐することもある。さらに、総肝動脈が横隔膜への枝を出すこともある。
[図663] 腹腔動脈(Arteria coeliaca)とその枝(3/5)
胃を少し下方に引き、肝臓を少し上方に折り返した状態。
[図664] 腹腔動脈の分枝