脊柱は骨と靱帯で構成された一種の「不動結合性連鎖」(synarthrotische Kette、R. Fick)である。脊柱には二つの主要な構造がある。一つは椎体の連なりである椎体柱(Wirbelkörpersäule)、もう一つは椎弓の連なりである椎弓板(Bogenplatte)だ。両者とも靱帯装置を持ち、椎体柱は節のある一本の柱、椎弓板は節のある一枚の板を形成している。椎体柱は体重を支え、椎間円板を通じて運動の範囲を決定する。一方、椎弓板は運動の軌道と方向を制御する。この二つの構造が互いに制限し合うことで、脊柱の機能が維持されている。
仙骨は寛骨と強固に結合して骨盤を形成するため、動きはない。上位24個の脊椎も多数の靱帯結合によって可動性が大きく制限され、隣接する脊椎間の動きはごくわずかである。しかし、これらのわずかな動きが24個分集まることで、脊柱全体として大きな機能を発揮できるのである。
脊柱は全方向に動くことができるが、主要な運動は以下の通りである:
これらの運動の範囲は脊柱の各部位によって異なる。また、死体では生体よりも可動域が大きく、個人差も顕著である。
前屈と後屈の運動範囲は頚部で最も大きい。腰部では後方への曲げは頚部と同程度だが、前方への曲げは頚部の1/3程度にとどまる。胸部では前屈・後屈が最も小さく、下部胸椎に限られる。ここでは後屈が最小で、前屈はやや大きい。
屈曲と伸展の回転軸は、髄核の中央を通る左右方向の水平線である。ただし、頚部ではこの軸がそれぞれ下位の椎体の中央を通る。
側屈の角度は、頚部で各側約30°、胸部で約100°(肋骨を除去した場合)、腰部で約35°である。その回転軸は髄核の中央を前後方向に貫く。
捻転は頚部で各側45°、胸部で40°、腰部で5°である。したがって、脊柱全体では各側90°捻転することになる。
Weberによれば、両足で直立した生体での体(脊柱と頭)の回旋は各側180°である。このうち72°は股関節・膝関節・足関節の寄与であるため、頭と脊柱の回旋は各側約108°となる。頭の回旋が各側約30°であることを考慮すると、脊柱の捻転角は78°となる。
[図387] 脊柱の節構造の模型図
[図388] 脊柱の太さの変化
[図389] 固定されたテコとバネ装置 a:固定台、h:テコの腕、f:曲げられたバネ、pとp':荷重
[図390] ヒトの脊柱と正中面上での弯曲を示す模型図(h:背方、v:腹方) 直立位で環椎の前結節aを通る鉛直線vは、第7頚椎b、第9胸椎c、第3仙椎の屈曲部d、尾骨の尖端eを通る。p:岬角、s:恥骨結合、1・2・3:それぞれ頚・胸・腰部弯曲(腰部弯曲はcまで達しない)、4:仙尾骨弯曲、h:水平線、n:規準結合線(恥骨結合上縁の内側と第3仙椎の中央を結ぶ線)、30°:規準結合線が水平線となす角度