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目次(III. 脈管系)

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RK632(胸骨と肋骨の面に投影した心臓と大血管の位置)

心臓の位置は、心拍と呼吸の各段階に応じて微妙に変化する。また、体位、年齢、個体差、性差によっても多少の違いがある。

心臓の長軸は正中面上にはなく、また単純に上下方向に伸びているわけでもない。右後上方から左前下方へ斜めに走っている。

心臓は縦隔の前部に位置し、心膜に包まれている。左右の胸膜腔の間に挟まれ、横隔膜の腱中心上に載っている。

ドーム状の横隔膜には、心臓によって心圧痕(Impressio cardiaca)と呼ばれるくぼみが形成される。このくぼみは肝臓の凸面にまで及ぶ。胸骨と肋骨、胸膜腔と肺の一部、および退化した胸腺の残存組織が心臓を前方から覆っている。

心臓と脊柱の間には、縦隔後部の諸器官—食道、迷走神経、大動脈、奇静脈、胸管—が位置している。

心臓の約3分の2は正中面より左側にある。一部の例では、さらに大きな部分が左に偏っている。凍結死体を正中断すると、胸腔の右半分には右心耳の先端を除く右心房、心房中隔、左心房の一部、右心室の一部が含まれる。左半分には左心房の大部分、左心耳、左心室全体、および心室中隔を含む右心室の大部分が属する。重量で言えば、心臓の3分の2が左側に、3分の1が右側にある。

上下方向では、心臓は胸骨体の下半分の後方に位置し、第3肋骨の上縁から剣状突起の底部にまで及んでいる。

心臓には隣接する構造物によって胸肋面脊椎面肺臓面横隔面などの面が区別される。これらのうち、胸肋面(または前面)が生体の心臓診察において最も重要である。心臓の胸肋面は右心房と右心室の前壁、および左心室の狭い帯状部分から構成される。心膜の前部に覆われた胸肋面の大部分は、前胸壁の後面に直接接してはいない。その間に両側肺の薄い前縁と左右の胸膜腔の心前陥凹が介在し、直接接する部分の広さは個体差があるものの、概して小さい。

心臓の下面、すなわち横隔面は平坦で、左右の心室および心房の諸部から構成される。この面は、やや傾斜した腱中心上および横隔膜筋性部の一部上に載っている。横隔膜上面で心臓に接する部分は心臓床(Herzboden)と呼ばれる。心臓の脊柱面は左右の心房、特に左心房の後壁から成る。心臓の冠状溝は前方から見ると、右第6肋骨の胸骨付着部上縁から左第3肋骨の胸骨付着部に至る線に相当する。

左心室の外側縁は円みを帯び、第3肋軟骨の胸骨縁から約3cm離れた地点から左第5肋間隙に向かい、途中で左第4・第5肋軟骨の外側端付近に達する。右心室の鋭い縁はほぼ水平に走り、右第7肋骨の胸骨付着部から剣状突起の底を通って左第6肋軟骨の中央に達する。右心房の右縁は右第7肋軟骨の胸骨付着部から外側に突出する弧を描いて上方へ向かい、右第6、第5、第4肋軟骨の胸骨端を越えて、右第3肋骨の胸骨付着部に至る。この縁は胸骨の右縁から1〜2横指離れて、胸骨傍線に達する。心尖は多くの場合、左第5肋軟骨の外側端からやや下内側に位置し、Sappeyによれば胸骨正中線から8〜10cm離れたところにあり、男性ではふつう乳頭から2横指下方である。したがって、右方に最も遠く達しているのは右心房であり、左方に最も遠く達しているのは左心室の下端である。

心臓を胸骨と肋骨の面に投影した形は、上述のとおり、またRK632(胸骨と肋骨の面に投影した心臓と大血管の位置) に示すように不正四辺形となる。下辺(右心室の自由縁に相当)はほぼ横走し、右第7肋軟骨の胸骨付着部から心尖に至る。右辺(右心房の右縁に相当)は右第7肋軟骨の胸骨付着部に始まり、右側に突出する弧を描いて胸骨傍線に達し、右第3肋骨の胸骨付着部下縁に終わる。左辺(左心室の自由縁[いわゆる心臓の鋭縁]と左心耳)は心尖から左胸骨傍線と左第3肋軟骨上縁との交点に向かう。上辺(最短)は左右両辺の上端を結ぶ線である。

房室間を分つ線(Atrioventrikularlinie)によって四辺形は2つの三角形に分けられる。右の小さい三角形が左右の心房に相当し(胸肋投影の心房三角Vorhofsdreieck)、左の大きい三角形が左右の心室の投影である(心室三角Kammerdreiek)。

胸骨の右側には右心房の大部分と右心室のごく小部分がある。右心房の残りと右心耳全体は胸骨の後方にあり、心耳の上縁はほぼ横走して右第3肋軟骨の胸骨付着部に至る。胸骨右方には上行大動脈の右縁と上下大静脈もある。胸骨左方には右心室と動脈円錐の大部分、左心室のほぼ全部、左心耳を含む左心房の小部分、および肺動脈の一部がある。胸骨後方には右心耳のほか、右心房の一部、右心室の1/3、上行大動脈の大部分、左心室後部の小部分、および左心房の約2/3がある。

心臓中隔は心臓の縦軸と同様に右後上方から左前下方へ走る。そのため中隔面は前上方から後下方へ傾斜している。心房中隔はほぼ平面で、胸骨の後方にほぼ完全に位置する。心室中隔は右前方へ突出した曲線を描き、胸骨縁を越えてその大部分が左側に出る。心室中隔の前縁と前室間溝の前縁は心臓の左縁と平行し、左縁から約1.5〜2cm内側を左第3から第5肋軟骨の後面に沿って下方へ走る。右房室口は前述の右第7肋軟骨胸骨縁から左第3肋軟骨胸骨縁へ走る房室間を分つ線の投影内にあり、その中心は左右第5肋軟骨胸骨端を通る水平線が房室間を分つ線と交わる点に当たる。別の表現では、三尖弁の底は右第5胸肋関節と左第3胸肋関節を結ぶ線上にある。左房室口(僧帽弁の底)は4つの心室口中最後方にあり、通常左第4肋軟骨胸骨縁と第3肋間隙胸骨端に位置する。右動脈口(肺動脈口)は左第3胸肋関節の直後にある。左動脈口(大動脈口)はさらに後方で、肺動脈口のやや右下方、第3肋間隙の高さで胸骨後方にある。上大静脈の開口部は右第3胸肋関節に向き合う。

既述のように、心臓の拍動と呼吸の各時期が心臓の位置に多少影響する。Hasselwander(Z. Anat. Entw., 1949)によると、心臓は吸気時に約8cm下方へ移動し、右心の運動は「上腹部の拍動」(epigastrische Pulsation)として剣状突起下方で観察・触知できる。左側臥位では心臓は左方へ、右側臥位では右方へ移動するが、左への移動がより顕著である。臥位では心臓は立位時より上方に位置する。年齢も著しい影響を及ぼし、小児では横隔膜と心臓の位置が高く、中年では中位、高年では低位となる。年齢による差異は1肋間隙の高さに達する。

特に注目すべき位置の変化は内臓逆位(Situs inversus)にみられる。これは心臓とその他の内臓が体の左右関係において正常の逆になるという高度の位置異常である。

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[図632]胸骨と肋骨の面に投影した心臓と大血管の位置(LuschkaとThomsonによる)(1/5)

a 右鎖骨、b 前斜角筋、c 胸鎖乳突筋、d 大胸筋・小胸筋(切断)と腕神経叢、e 気管、f, f 横隔膜上面、g, g' 肺、g' 左胸膜頂の尖った上端部(頚部)、h 肝右葉, h' 肝左葉、i 胃、k, k 横行結腸 I~X 第1〜第10肋骨(左右対) 1 大動脈弓、2 肺動脈、3 右心耳、3' 右心房、3" 右心房下界(右心室への移行部)、4 左心耳、5, 5 右心室、6 左心室、6' 心尖、心臓周囲の白線は心膜境界を示す。7, 7 上大静脈、8, 8' 内頚静脈(内側に総頚動脈)、9, 9' 腕頭静脈