側頭鱗Squama temporalisは凹面の内側を持つ円板状の骨板で、側頭面Facies temporalisと大脳面Facies cerebralisの2面がある。側頭鱗は頭蓋の側壁を頭頂骨と蝶形骨の間で補完し、これらの骨と結合する部分が頭頂縁Margo parietalisと蝶形縁Margo sphenoideusである。
側頭鱗の縁は主に内面が削られて鋭い縁となり、内面より外面の方が広い。蝶形骨の大翼に接する蝶形縁のみが鋸歯状をなす。内面(大脳面Facies cerebralis)には脳回圧痕Impressiones gyrorumと脳隆起Juga cerebralia、さらに縁の前部に沿って中硬膜動脈のための溝がある。外面(側頭面Facies temporalis)は上部がやや湾曲し、側頭筋の起始部として粗面をなす。外耳孔近くには上行する血管溝があり、これを中側頭動脈溝Sulcus arteriae temporalis mediaeという。側頭面は側頭窩の壁の一部を形成する。前方に伸びる長い突起を頬骨突起Processus zygomaticus, Jochfortsatzという。この突起は根元が幅広く上下両面を持つが、先端に向かって細くなりねじれて、内側面・外側面・上稜・下稜が明確になる。上稜は鋭く最も前方に突出し、前端は斜めでギザギザがあり頬骨と結合する。頬骨突起は後方へ、臨床上重要な側頭線Linea temporalisに移行する。その下の外耳孔後上隅に、80%の症例で**[外耳]道上棘**Spina supra meatumが存在する。
下方から見ると、頬骨突起の基部に関節結節Tuberculum articulareがある。その後方に左右に延びた卵円形のくぼみがあり、これが下顎骨の関節窩である下顎窩Fossa mandibularis。これを覆う軟骨は関節結節の表面に直接続き、丘陵状の関節面を形成する。この関節窩の後方に関節後突起Processus retroarticularisという隆起があるが、通常は低く、個人差が大きい。さらにその後方に、外耳道の天井をなす側頭鱗の重要部分が続く。この部分は下顎窩同様にくぼみ、奥(鼓室方向)では鼓室切痕Incisura tympanicaをなす縁で終わる。側頭鱗の前上方に突起があり、前頭骨に達する(側頭鱗の前頭突起Processus frontalis squamae temporalis)。これが蝶形骨の大翼を頭頂骨から隔てることがある。この突起は高等人種より下等人種に多く見られる。