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(RK254(**下顎骨:**下後方からの図)、255(**下顎骨:**前上方からの図) 、RK256(新生児の下顎骨:左側面図) 、RK257(30歳男性の下顎骨:左前方から見た図) 、RK258(80歳女性の下顎骨:左側面図) 、RK259(下顎骨:30歳男性、前面図) 、RK260(下顎骨とその歯槽)、261(舌骨:前面図) 、RK272(頭蓋の正中矢状断面)、RK273(頭蓋(45歳男性)前面観) 、RK274(頭蓋45歳男性、側面図))
下顎骨は顔面頭蓋の骨のうちで最も厚くて頑丈な骨で、他の頭蓋の部分とは2つの関節で可動性に結合している。下顎体Corpus mandibulae, Körper des Unterkiefersは放物線状に湾曲した板の形をしており、その後端部は鈍角をなして上方へ向かっている。この部分を左右それぞれ下顎枝Ramus mandibulae, Unterkieferastという。
下顎体の前方、オトガイ部に三角形の領域がある。これがオトガイ三角Trigonum mentaleで、その底辺は体の下縁に一致し、両底角は多少とも強く突出して、左右のオトガイ結節Tuberculum mentaleを形成している。またこの三角形の頂点から正中線上を1つの隆起が次第に低くなりながら下方へ伸びている。これがオトガイ隆起Protuberantia mentalisで、もと分離していた下顎骨の左右両半の融合部に相当する。
下顎骨の下部は以前下顎底Basis mandibulaeと呼ばれ、斜めに後上方へ、緩やかなS状に湾曲する線を描いている。下顎底は前方の部分が下顎枝の部分より厚い。歯を持つ上方の部分は歯槽部Pars alveolaris、その自由縁は歯槽縁Margo alveolarisと名付けられている。歯槽部には14~16本の歯が各歯槽内に固定されている。
体の外面には歯槽隆起Juga alveolariaがある。第1ないし第2小臼歯の下方、中ほどの高さのところに、下顎管Canalis mandibulaeが著明な孔をもって側方へ開いている。これがオトガイ孔Foramen mentaleで、左右各側に1つあることが多く、同名の神経と血管の出口となっている。下顎管は下顎骨のほとんど全体を貫通するかなり太い管である。体の下縁の中央から1本の滑らかな隆起線が始まり、斜めに後上方へ伸びて下顎枝の筋突起に続く。これが斜線Linea obliquaである。
体の内面の前方、正中線の脇、下縁に接して、左右1つずつの浅いくぼみがある。これは二腹筋窩Fossa m. biventerisと呼ばれ、顎二腹筋の前腹が起始するところである。その上の中央に下顎棘Spinae mandibulaeという4つの小結節が集まっている。そのうち上方にある大きい方の2つはオトガイ舌筋棘Spina m. genioglossi、下方にある小さい方の2つはオトガイ舌骨筋棘Spina m. geniohyoideiと呼ばれ、それぞれオトガイ舌筋とオトガイ舌骨筋の起始部である。これらの小結節から、顎舌骨筋線Linea mylohyoideaが続いており、この線は斜めに上方へ走っている。この線の後ろには顎舌骨神経溝Sulcus mylohyoideusがあり、下顎孔Foramen mandibulaeから始まって斜め下方へ走っている。この溝の後下方には内側翼突筋の付着する翼突筋粗面Tuberositas pterygoideaがあり、その大部分が下顎枝の領域内にある。
下顎枝Ramus mandibulae、Unterkieferastは体よりも薄く、体との間に多少の差はあるものの、鈍角をなしており、2面・2稜・2突起を有している。下顎枝は上方に向かうにつれて、(矢状面上での)幅を増すと同時に厚さを減じる。体の下縁が下顎枝の後縁に移行するところは下顎角Angulus mandibulae、Kieferwinkelと呼ばれる。
下顎枝の後縁は、後方から見て明瞭なS字形の湾曲を示し、いったん細くなってから急に幅を増して下顎骨の関節突起Processus articularisの後面に移行する。それとは逆に、下顎枝の前縁は上行するほど薄くとがった縁となり、筋突起Processus muscularis, Muskelfortsatzとして終わる。この突起はその名の通り純粋に筋付着のためのもので、側頭筋がここで起始する。下顎枝の外面には下顎角のところに咬筋粗面Tuberositates massetericaeというざらざらした面がある。内面の翼突筋粗面Tuberositas pterygoideaについてはすでに述べたが、この面にはまた著明な下顎孔Foramen mandibulaeがあり、その上方には前方から下顎小舌Lingula mandibulaeが突き出している。下顎孔は下顎管Canalis mandibulaeの入口である。下顎管はオトガイ孔を越えて正中部にまで続き、多数の細い副管を歯槽部と歯根に送り出している。下顎小舌には蝶[骨下]顎靱帯Lig. sphenomandibulareが付着する。
筋突起の上縁は凸の曲線をなしているが、横方向に強く押しつぶされた形である。この突起は関節突起との間を下顎切痕Incisura mandibulaeで隔てられている。
後方の突起は関節突起Processus articularis、Gelenkfortsatzで、下顎小頭Capitulum mandibulaeという関節頭を、下顎頚Collum mandibulaeというくびれた部分の先につけている。下顎小頭の下には関節突起の翼突筋窩Fovea pterygoidea processus articularisというくぼみが前方に寄って存在し、外側翼突筋の付着部となっている。
関節頭は左右の方向に強く伸びており、楕円体の関節面を持っている。関節頭の内側端は後方へ後退しているため、左右の両関節頭の長軸を延長させると、大後頭孔の前縁のところで交わるようになっている。
歯槽部Pars alveolarisの歯槽Alveoliと槽間および槽内中隔Septa interalveolaria et intraalveolariaについては、前に(172頁)上顎骨の項で述べたのと同じである。最も奥の大臼歯の後ろには臼後三角Trigonum retromolareがある。
年齢による差異:下顎歯の前縁は歯槽部の縁に対して直角に近い角度をなしており、その両辺は互いに弓状をなして移行している。これに対して下顎枝の後縁は体の下縁と約120°の角度をなし、小児期には140°あるいはそれ以上である(RK256(新生児の下顎骨:左側面図) )。歯のない老人の下顎では、この角度が再び大きくなる。高齢者で歯を喪失した後は、歯槽突起はほぼ完全に消失し、これは上顎骨の歯槽突起でも同様である(RK258(80歳女性の下顎骨:左側面図) )。
オトガイ隆起は年齢を重ねるにつれて前下方へ移動する顕著な傾向を示し、下縁に向かって垂直に下降することも少なくなく、完全に消失することさえある。一方、下顎の前面はこれとは逆に下後方へ引っ込む傾向を示し、その下部はオトガイ隆起より突出することなく
徐々に後退していく。こうして下顎骨の人間らしい形が失われ、動物のそれを思わせる形になるのである。
[図254,255]下顎骨(30歳男性,4/5倍)。図254は下後方から,図255は前上方から撮影。
[図256] 新生児の下顎骨:左側面図(実物大)
[図257] 30歳男性の下顎骨:左前方から見た図(4/5倍)
[図258]80歳女性の下顎骨:左側面図(4/5倍)(ベルリン解剖学標本集より)
[図259]下顎骨:30歳男性、前面図(4/5倍)
[図260] 下顎骨とその歯槽:図247に示した上顎と同一個体のもの(4/5倍)
[図261] 舌骨:前面図(等倍)