脊柱の頚部・胸部・腰部および仙尾骨には正中面内での弯曲がある。頚部と腰部の弯曲は前方に凸で前弯、胸部と仙骨の弯曲は前方に凹で後弯である。
これらの弯曲には新たな力学的原理が働いている。脊柱は複数回弯曲したバネと固定されたテコの原理で荷重を支えている。RK387(脊柱の節構造の模型図)、388(脊柱の太さの変化)、389(固定されたテコとバネ装置)、390(ヒトの脊柱と正中面上での弯曲を示す模型図) では、水平なテコhがa点で固定され、荷重pがかかっている。このテコを曲げてバネ状にすると、荷重pの重力線が支点aの後方に落ちる。すると弯曲したテコの腕が弾性抵抗で荷重を支え、荷重と弾性抵抗が釣り合うと平衡状態に達する。
この原理は直立時の人間の脊柱にも適用される。RK387(脊柱の節構造の模型図)、388(脊柱の太さの変化)、389(固定されたテコとバネ装置)、390(ヒトの脊柱と正中面上での弯曲を示す模型図) の脊柱弯曲を見ると、dp部分(仙椎上半)が仙腸関節で骨盤に固定されている。重要なのはpc部分で、c点(第9胸椎椎体)は体幹全体の重心にあたる。この重さがc点でバネpcに作用し、重力線は岬角後方の固定部後縁に落ちる。バネpcは体重で緊張し、平衡状態に達すると安定する。これが仙椎の骨結合と仙骨の屈曲点d(第3仙椎中央)の役割を説明する。
脊柱は複数の弯曲を持つバネである。pcに続いてcb、baと続き、頚部と胸部の弯曲は頭部と上肢の重さを支える。胸部脊柱の前方凹弯曲は内臓収容に適しており、バネ構造とも調和している。上肢の重みは胸骨と第1肋骨対を介して胸部脊柱にかかる。
脊柱の長さは水平位より直立位で短く、体外でも圧力と張力の影響下にある。椎弓列を椎体柱から分離すると、弓間靱帯の収縮で32~45mm短縮し、元の長さに戻すには約2kgの負荷が必要である。つまり椎弓列はこの弾力で椎体柱を圧している。椎弓列分離で頚部・腰部の弯曲は弱まり、前後縦靱帯除去でほぼ直線化する。
新生児の脊柱弯曲は存在するが未完成で、特に岬角の突出が低く、腰部脊柱の弯曲が相対的に弱い。