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目次(IV. 内臓学)

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(図343(胸膜腔:前方から開いた図)図344(**胸膜と肺の境界線:**前方からの図)、345(胸膜と肺の境界線:後方からの図)図346(胸膜洞:胸腔内の3つの漿膜嚢の前頭断)図347(**胸腔の3つの漿膜嚢:**横断面) )

(左右の)胸膜腔Cava pleurae (dextrum et sinistrum)は、胸腔の左右各半を内側から覆う2つの閉鎖された漿膜性の嚢である。これらの嚢内に、肺が内側面から入り込んで広がっている。この漿膜の被覆を胸膜Pleura, Brustfellという。

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[図343]胸膜腔:前方から開いた図(1/5)

胸膜の壁側葉は黄色、心膜は緑色、横隔膜は赤色で着色されている。頚部は解剖して露出させてある。前胸壁とそれに相当する胸膜の部分は除去されている。

1 第1肋骨;2 胸骨柄;3 鎖骨の肩峰端,その内側部は両側とも取り除いてある;4 剣状突起;5 白線;7腹横筋;7 第7肋骨;8 胸鎖乳突筋;9 前斜角筋;10喉頭;11 甲状腺;12 中頚筋膜;13 前縦隔の上部;14 胸膜頂;15 胸膜の縦隔部;16 胸膜の肋椎部の下界;17 心膜(緑);18 肺の上葉;19 肺の中葉;20 肺の下葉;21 横隔膜.

左右の胸膜は臓側部と壁側部からなる。

臓側部は肺胸膜Pleura pulmonalisといい、肺門と縦隔肺ヒダPlica mediastinopulmonalisの付着部を除いた肺全体を被う。胸膜は肺葉を区切る葉間裂に沿って入り込み、肺門近くの葉間裂底に達し、そこで一つの肺葉表面から他の肺葉表面に移行する。

壁側部は壁側胸膜Pleura parietalisといい、肋椎部Pars costovertebralisとして肋骨、肋間筋、および椎体内面を被う。また横隔部Pars diaphragmaticaは突出した横隔膜上面を被い、さらに矢状方向の第3の部分、縦隔部Pars mediastinalis(図343(胸膜腔:前方から開いた図)、15)が正中面側方で後胸壁から前胸壁へ、つまり椎体前面から胸骨に達する。縦隔部のうち心膜外面を被う比較的大きな部分は特に心膜部Pars pericardiacaと呼ばれる。各側の胸膜嚢上部は胸膜頂Cupula, Pleurakuppel(図343(胸膜腔:前方から開いた図)、14)といい、その側の肺尖を入れ、円錐形に膨らんだ嚢として胸腔上口から頚部に突入する。第1肋骨前方部を上方に3〜4cm越え、斜角筋群下で第7頚椎中央の高さまで達する。斜角筋群はこの胸膜頂を上方から被う。

しかし胸郭上口は前下方に傾斜し、その後方境界は第1胸椎から始まるため、胸膜頂は実際の頚部にはわずかな低い膨らみとして突出するのみである。一般に右胸膜嚢は左よりもやや多く頚部に入り込む。

**局所解剖:**胸膜頂は外側上方を斜角筋、内側を気管、食道、鎖骨下動静脈の一部、上方を腕神経叢下方幹によって境される。

胸膜嚢の下界は横隔膜起始には達せず、それより早く横隔膜から胸壁に移行する。そのため横隔膜周辺部は結合組織によって直接胸壁と結合する。横隔膜は右側がより強く上方に高まり、それに応じて右胸膜嚢は左よりもやや短い。しかし右は左よりも幅が広い。したがって胸膜下界は左側が右側よりも常にやや下方にある。

骨格との位置関係では胸膜下界、すなわち下胸膜線Kaudale Pleuralinie(胸壁において胸膜横隔部が肋椎部に折れ返る部分の投影線)の走行は次のようである。これは個体差がある。この線はまず第6肋軟骨に沿い、次いで第6肋間隙を横切り、さらに第7肋骨の骨部と軟骨部の境に達する。そこから上方に凹の弓を描いて第8〜第11肋骨骨部を越え、その間に骨部と軟骨部の境からますます遠ざかり、最後に第12肋骨中央部に達する。通常は第12肋骨に沿って第12胸椎体まで達する。時にこの線が第12肋骨走行に沿わず、その中央部で交差して脊柱に進む(この変異は腎臓手術時に重要)。また左下胸膜線は前述の通り常に右よりも少し下方にある(図343(胸膜腔:前方から開いた図)図344(**胸膜と肺の境界線:**前方からの図)、345(胸膜と肺の境界線:後方からの図))。

前胸膜線Ventrale Pleuralinie、すなわち胸骨での肋椎部が縦隔部に折れ返る部分の投影線と胸郭との関係も同様に重要である(図343(胸膜腔:前方から開いた図)図344(**胸膜と肺の境界線:**前方からの図)、345(胸膜と肺の境界線:後方からの図))。胸骨柄後面では左右の線が下方で集まり、三角形の上胸膜間野Area interpleurica cranialisが形成される。ここには脂肪組織と胸腺があるため胸腺野Area thymicaとも呼ばれる。胸骨中央部で胸骨左縁に密接して左右の線は接しており、その後方に心臓と心膜の一部を被覆する。左右の線は第4胸肋関節から次のように離れていく。左線は左方へ軽い凹みを示し、左肺心切痕に沿うがそれには達しない。右線は胸骨左縁近くをまっすぐ走り続ける。第6肋軟骨の高さで前胸膜線は各側とも下胸膜線に移行する。時に左右の前胸膜線が重なることがある。こうして左第4〜第6肋軟骨後方には胸膜のない下方部分があり、これを下胸膜間野Area interpleurica caudalisという。またこの部分では心臓の一部が心膜に覆われたまま胸壁に直接接するため、心膜野Area pericardiacaとも呼ばれる。

後胸膜線Dorsale Pleuralinie(脊柱上で肋椎部が縦隔部に折れ返る部分の胸壁投影)は左右で異なる。左後胸膜線は椎体側縁に沿うが、上部と下部では正中線に近づく。右後胸膜線はその経過中央部で正中線を越えて左方にあるが、上部と下部は正中線より右にある。また第4胸椎の高さで右縦胸静脈末端部に相当する深い切れ込みを持つ。

**変異:**健康な人でも胸膜線が上述の関係から多少とも重要な、時には著しい変化を示すことがある。最も重要なのは左右の前胸膜線が胸骨全長にわたって密接して走り、心膜が前胸壁から完全に引き離される場合である。反対に左右の線が大きく離れて走り、右線が胸骨右縁を、左線が胸骨左縁を下行することもある。また右線が胸骨右縁を走り、左線が同じく胸骨右縁まで偏位することもある。

肺の縁Lungenränderは呼吸のいかなる時期でもこれらの胸膜線全てと一致するわけではない。ある場所ではこの線より後退し、また別の場所では一致する。