解剖学は、形を具えたあらゆる物体の世界(Körperwelt)の形態と構造を研究する科学である。その対象は鉱物、植物、動物の領域に及び、その範囲は極めて広範である。

解剖学は肉眼で観察可能な形態と構造だけでなく、顕微鏡を用いて観察できるすべての事象も包含する。光学顕微鏡は微細構造をある程度まで表示できるが、電子顕微鏡では分子の集合体まで観察可能である。そのため、形態研究は肉眼的顕微鏡的超微細的の三段階に区分される。

この広大な領域において、人間の解剖学はその一部分に過ぎないが、その内容は膨大である。人間は形態、構造、構成物質の観点から周囲の世界と密接に関連し、特に動物界との関係が顕著である。そのため、比較(Vergleichung)が不可欠となる。人間の解剖学は比較解剖学(vergleichende Anatomie)という広範な学問の一部門であり、両者は密接に連携して研究を進める必要がある。

人間の解剖学(Anatomie des Menschen)は主に成人(Erwachsene)の体を対象とするが、これは終止形(Endform)に過ぎない。この終止形は初期形(Anfangform)から始まり、多数の中間形(Zwischenformen)を経て発達する。そのため、個体の発生学(Entwicklungsgeschichte)、すなわち個体発生(Ontogenie)は解剖学理解の重要な鍵となる。さらに、すべての生物が個体発生を経ることから、比較発生学(Entwicklungsgeschichte)も人間の解剖学理解に不可欠な視点を提供する。

解剖学の第四の重要な側面は生理学(Physiologie)である。これは個々の体やその部分の機能や働きを研究する学問で、機能学(Ergologie, Werklehre)とも呼ばれる。身体の構造は機能を支え、機能は物質と形態に基づいて生じるため、生理学は解剖学と密接に関連している。

人体の終止形は単一ではなく、正常な状態で女性と男性の二形態が存在する。この二つの形態の違いとその本質的差異を究明することが、両性の解剖学(Anatomie der Geschlechter)の役割である。

現在、地球上の人口は約24億600万人に達するが、完全に同一の個体は存在しない。身体的特徴が異なる大規模な人間集団を外部および内部の特徴によって記述する解剖学の分野は、人種の解剖学(Anatomie der menschlichen Rassen)と呼ばれる。

これまでに最も詳細に研究されてきたのは、インド・ヨーロッパ語族(indoeuropäische Völkerfamilie)に属するコーカソイド人種である。そのため、この人種が我々の人体解剖学の基礎となっている。

次いで、日本人の解剖学的研究が最も進んでいる。

また、系統解剖学(systematische Anatomie)と局所解剖学(topographische Anatomie)を区別する必要がある。系統解剖学は身体を全体として扱い、次に体を構成する様々な器官系に従って研究する。さらに、人体が動物の系統の中で占める位置も研究するため、「系統解剖学」という名称は二重の意味を持つ。系統解剖学は記載解剖学(deskriptive Anatomie)とも呼ばれる。

一方、局所解剖学は体の様々な領域における諸器官および器官の各部分の隣接関係を研究する。この際、系統解剖学の知識が前提となる。系統解剖学が純粋に学術的な目的を持つのに対し、局所解剖学は主に医療実践に向けられている。局所解剖学が専ら外科的な要求に基づく場合は、外科解剖学(chirurgische Anatomie)と呼ばれる。

体質学(Konstitutionslehre)は、様々な体質の型の外部的な現れを記述することを基礎としている。

自然科学の探究や医療実践のためだけでなく、すべての人間が自身の体について一定の知識と理解を持つことが極めて重要である。この役割を果たすのが通俗解剖学(Populäre Anatomie)である。

また、芸術家は鉱物、植物、動物、および人間を形に表現する上で、十分な解剖学的知識と理解が必要である。芸術家は主に体の表面に現れる形態を模写するが、刻々と変化する表面の形を正確に捉え、理解することは容易ではない。複雑な表面の形を正確に知るためには、体の個々の部分や器官系だけでなく、全体(Gesamtkörper)の知識が特に重要である。芸術家の目的に沿った解剖学的記述を集めたものが芸術家のための解剖学(Anatomie für Künstler)あるいは造形解剖学(plastische Anatomie)である。

先に成人の解剖学について述べたが、それに加えて、乳児期、小児期、老年期といった重要な発達段階についての特別な解剖学的記述があることも見落としてはならない。

生命を有するもの全体についての科学、すなわち生物学(Biologie)に対する解剖学の関係は、次の表によって明確に概観できる。

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生物学=形態学+生理学(機能学)

解剖学および発生学

個体発生および系統発生